日本史の「事始め」19 環境汚染に挑んだ女帝

歴史上の人物や出来事においては、時としてその知名度と歴史的意義が
必ずしも整合していないかのような印象を受けることもあります。
たとえるならば、現代ではエピソード程度に語られている事績が、少し
深入りしてみると、じつは当時においてはメッチャ壮大な政治構想に
基づいたものだったりする場合のことです。


 tennouryou_tenmu_jitou_01.jpg 天武持統合葬陵

という思わせぶりな前フリのあとに、ここに第41代・持統天皇
(645-702年)を登場させてみます。
諡名からは分かりにくいのですが、じつは女性天皇でこの程度の
プロフィールになるのでしょうか。

~第38代・天智天皇(626-672年)の娘(第二皇女)であり、第40代・
 天武天皇(生年不明-686年)の皇后~

要するに、夫・天武崩御を受け、その皇后であった彼女が後継天皇と
して即位したと女性であるという説明です。

さらに、「日本書記」はこう紹介しています。
~沈着で度量が大きく礼にかない、母親としての徳もあり、仏教に
 対しても熱心で、歌をよくした~

現代における知名度と比較すれば、当時の評価がメッチャ高いものに
なっていることに気が付きます。

さらに、「日本書記」に記された以外の話題として、以下の点も挙げて
おくべきかもしれません。
○史上三人目の女性天皇(33代・推古/35代・皇極<重祚して37代・斉明>
存命中の天皇が譲位したのは皇極天皇に次いで史上2番目のケース。
○譲位後(697年)は、史上初の「太政天皇」(上皇)となった。
○自らの意思で火葬を選び、天皇の火葬はこれが史上初の例となった。

こうした事績からも、彼女が「進取の精神」に富んだ女性天皇だった
ことがよく分かります。
しかし、それに対する現代評価はじつはそれほど高いものにはなって
いません。
それが証拠に「火葬された天皇」という、日本史上初の出来事も、
せいぜいがトピックス程度の紹介に留まり、彼女がなぜ「火葬」を
選択したのかその理由にまで触れられることがほとんどありません。

お話のついでですから、その「火葬」についてちょっと調べてみると、
~日本における火葬は仏教と共に伝わったという説が有力とされている~
とあり、さらには、
~奈良・元興寺の開祖・道昭(629-700年)が自らの意思で民に模範を
 示したことに始まったと伝えられる~


もっとも、縄文時代や弥生時代の遺跡からも火葬骨が出土するそうです
から、「僧・道昭の火葬が最初」とする見解は、あくまでも仏教思想に
基づいてとの前提の上に、なおかつ記録に残された範囲での、という
条件下での「最初」ということになりそうです。

ところが、702年に崩御した持統天皇の火葬儀は殯(もがり)の期間を
経て翌703年、つまりの僧・道昭の「日本初の火葬儀」から僅か三年後に
執り行われているのです。

この素早さは、単なる「新しい物好きのトレンディ女性」というレベル
をはるかに超えています。
そこで筆者などは想像してしまうのですが、最期を迎えるのが多少
遅かっただけのことで、「火葬採用」の決心自体はひょっとしたら
僧・道昭よりもこの持統天皇の方が早かった、かもしれん?

~仏教に対しても熱心で~ 「日本書紀」にこうした記事があること
だけを根拠にしているわけではありません。
彼女の胸の内には、それよりはるかに壮大な構想があったことも
推察されるからです。



jitou_tennou_21.jpg 第41代・持統天皇

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それは、国家の首都である「都」の在り方です。
その変遷は、持統女帝に至るまでも、ざっとこんな案配を辿っていました。

○655年/板蓋宮(奈良県)   35代・皇極天皇
○655年/川原宮(奈良県)   37代・斉明天皇(皇極の重祚)
○656年/後飛鳥岡本宮(奈良県)   同上
○667年/近江大津宮(滋賀県) 38代・天智天皇
○694年/藤原京(奈良県)   41代・持統天皇
非常に大雑把に言うなら、天皇一代ごとに「遷都」を繰り返していた
わけです。

なんで、そんなことを?
現代人はモロに「迷信」扱いするのでしょうが、当時の人たちは
天皇の崩御によって、その居住地・都の辺り一帯は「死穢」に
覆われてしまうと受け止めていたのです。
「穢れ」大嫌い人種である当時の人たちにとって、最大の「穢れ」
とは死の穢れ「死穢」であり、その中でも最高の存在である「天皇」
の「死穢」は超ド級・メガ超ド級もので、どんなに努力を傾けようが
到底清められるものではないと受け止めていました。

そうなると「清められない都」は棄てるほかありません。
さりとて、都が不要ということではありませんから、結局新たな地に
新しい都を建設し、そこに「遷都」せざるを得ないわけです。
このような今までのシステムに、おそらく持統天皇は大きな疑問を
持っていたものと思われます。

~たびたびの遷都が国家財政を疲弊させているワ~
では、どうしたらいいものか?
~要するに、天皇の崩御があってもその「死穢」を処理できる
 システムが備わっているのであれば、なにも新しい都を建設する
 必要もないわけじゃん~


彼女は、「死穢」問題を解決することは同時に新都建設費用の節約
にも直結すると考えたわけです。
しかし、そんな虫のいい解決方法があればとっくの昔に誰かが
飛びついていたはずです。
~古い世代の考え方に沿っていたのでは到底埒が明かないワ。
 ということなら、仏教という最新科学・先端テクノロジーを
 用いるのはどうかしら?~


遺体をそのまんま土に埋めているから「死穢」問題が解決できないと
考えた持統天皇が、思案の末に辿り着いたのが、仏教という最新科学
の先端テクノロジーである「火葬」だったわけです。

~「火葬」って知れば知るほど凄いじゃん、だって先人たちが、
 どうしようもなく困り抜いていたその「死穢」ごと焼尽しちゃう
 んだものねぇ~

で、ここまで思い至れば、当然自らが死去した場合の葬法にも思いが
走ります。

~ここまで来たら「日本史上初」という栄冠も頂戴したいくらいだワ。
 でも、そのために死ぬのを待ち望むなんてのもちょっとヘンだわ
 ねぇ~
そうこうしているうちに、僧・道昭の火葬が取り行われ、持統天皇の
火葬は「日本史上初」ということにはなりませんでした。
しかし、天皇にあった者としては「日本史上初」の火葬になりました。

そして、この持統天皇の火葬以後の遷都はこうなっています。
○710年/平城京(奈良県) 43代・元明天皇
     740年/恭仁京(京都府)
     744年/難波京(大阪府)
     745年/紫香楽宮(滋賀県)
○745年/再び平城京 45代・聖武天皇
○784年/長岡京(ながおかきょう) 50代・桓武天皇
○794年/平安京(へいあんきょう) 50代・桓武天皇
持統天皇の大改革が次第に功を奏し初めたのでしょう、少なくとも
「死穢」を理由とする一代限りの「遷都」風景ではなくなりました。

それがさらに明瞭に分かるのが「平安京」で、途中平清盛政権による
福原京(兵庫県)という瞬間的遷都(1180年)?はあったものの、
その座を明治元年(1868年)に東京に譲るまで、なんと一千年以上
もの長きに渡って都であり続けたのです。

その意味では、「解決不可能」と思われていた「死穢」汚染という
環境問題を、自らの体を張ることで見事に解決に導いた持統天皇は、
日本史上でも稀にみる大政治家だったと評価すべき気がするのです。

~その知名度と歴史的意義が、必ずしも合致していない~
要するに、その格好の例をこの持統天皇に見るということです。




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