日本史の「落胆」09 城内正装は不自由を優先

ぼんやりと眺めていたTV時代劇にひょっこり登場していたのが、
裃(かみしも)姿の武士でした。
時代劇では割合よく見かける裃姿ですが、どういう加減かその時ばかりは
特別に奇異な服装に感じられたのです。 
だって考えても御覧なさいヨ、早い話が、肩部分をあんなに突っ張らせる
必要がどこにある、っていうことです。


 kamishimo_nagabakama_01.jpg 裃(肩衣・長袴)

そこで裃(かみしも)について少しばかり探りを入れてみました。
すると、まずはこんな説明です。 ~和服における男子の正装の一種~
知ったかぶりで大変恐縮ですが、厳密に言えばこの説明もいささか正確さに
欠けている感じです。

というのは、通常は十把一絡げで「衣服」と表現するものの、一応の約束事も
あって、本来は、
~袖口が広く、体をゆったりと覆うものが「衣」~であり、一方
~袖口は狭く、体にピッタリと纏うものが「服」~というからです。

ところが、~明治に西洋の衣服が輸入され、これを「洋服」とよんだ。
 これに対して従来の日本の衣服を「和服」とよぶようになった~

との説明ですが、「従来の日本の衣服」(着物のこと)そのものは、間違いなく
~袖口が広く、体をゆったりと覆うもの~に該当しているのですから、
これを「服」と呼ぶことはイマイチ変と言えば変なのです。

つまり、厳密さを求めるなら「洋服」に対する言葉は「和服」ではなく、
「和衣」とすることが、筋を通したやり方ということになりそうです。
しかしまあ、その「和服」という言葉がすっかり定着してしまった今になって
こんなことを言い出しても始まりません。

そこでお話は「裃」へUターン。 もう少し詳しい説明はこうなっています。
~裃は「肩衣」(かたぎぬ)という上半身に着る袖の無い上衣と、
 「袴」(はかま)の組合せ~


とんと大きな誤解をしていましたが、上半身の「突っ張り肩」だけでは裃とは
言えず、下半身の「袴」とセットになって、初めて一丁前の「裃」ということ
のようです。
そういえば、「編に衣、旁(つくり)に上下」とした「裃」という文字自体が
すでに~肩衣(上)と袴(下)のセット衣~であることを示していますものねぇ。 

さて、現代人の感覚からしたら動作不便であろう上に、いささか異様な
デザインにも映る「裃」。 
折角ですから、その歴史もちょっと探ってみることにしました。
~室町時代(1336-1573年)の頃に起こり、江戸時代(160-1868年)には
 武士の平服または礼服とされた~

杓子定規な態度を繰り返すなら、ここでの言葉使いも「平服/礼服」ではなく
むしろ「平衣/礼衣」がベターなのかもしれません。

また武士だけが独占使用していたかといえば、これもちょっと違うようで、
~また公家においても江戸時代には継裃を日常に着用していた~
とされていますから、朝廷でも普通に用いられていたことになりますが、
ちょっと待てヨ。
「裃」ならぬ「継裃」(つぎかみしも)って、いったい何のことですか?

一瞬、新型の裃かとも思ったのですが、こんな説明です。
~裃はもともと肩衣と袴とが共布のものであるが、それぞれに地質・色目の
 異なるものを継裃といった~

要するに、上下お揃いの生地ではない、ということのようです。

それに、武士の裃姿は時代劇でもよく目にするところですが、御公家サンも
裃姿になることがあったのですねぇ。
これは知らなかった。 それに、こんな説明も。
~肩衣と袴の組合せによる裃の起源は明らかではないが、室町幕府
 第三代将軍・足利義満(1358-1408年)の頃、合戦の折に素襖(すおう)の
 袖と裾を括って用いたことに始まるという~


的確な説明なのでしょうが、情けないことにファッションに疎い筆者には、
その「素襖」がイメージできません。 
~(素襖とは)直垂(ひたたれ)の一種~とありますから、まあ、当時のごく
普通の装束と受け止めていいのかも。


 kamishimo_01.jpg edojyou_tensyu_01.jpg
      裃姿 / CG・江戸城天守閣
 
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また、こんな説明もあったことからすれば、要するに普段の服装から派生した
新たなデザインとその着方が、裃のルーツになったという理解もできるのかも
しれません。
~もとは素襖から袖と胸紐を外しただけの構造であったらしいが、
 やがて肩衣のまえ身ごろに襞を取り細くして、打合せで着るのではなく、
 袴に裾を差込むかたちに変化した~


なにせ、ファッションが流行に敏感なのは今も昔も変わりません。
~その後さらに肩幅を広く取ることが流行し、元禄年間(1688-1704年)
 には生地幅一尺(約30センチ)に至り、この寸法が固定した~


固定したということですが、これで「裃の定番」の完成ということには
ならなかったようです。
~江戸時代中期には鯨ひげを入れて肩を張らせる仕立てがあらわれた~
時代劇で見る「裃姿」の多くが、たぶんこれなのでしょうね。
なにせ、肩上のラインがカッコよくピンと張っていますから。
それにしてもの、あのピンの仕掛けが鯨ひげだったとは思わなかった。

それはともかく、上と下がセットになって初めて「裃」なのですから、上の
「肩衣」に工夫が見られれば、当然下の「袴」にも工夫が施されます。
~江戸期には大名と御目見以上の旗本は礼服として長袴を用いる習慣が生れ、
 これを「長裃」と称した~


以前にしっかり覚えたはずなのですが、今やすっかり忘却の彼方ですので、
申し訳ありませんが、ここでもう一度おさらいをさせてください。
 大名 → (江戸時代)将軍に直属した1万石以上の武家。
 旗本 → 将軍直参の武士のうち将軍に謁見する資格を有する者。
御家人 → 将軍直参の武士のうち将軍に謁見する資格を有しない者。

また「長袴」はファッション面だけでなく、実利的な効能も備えていたよう
です。
~将軍のいる江戸城内での争い事は、将軍の権威を貶めることなるため、
 厳禁とされた。 そこでそうしたことを抑止する意味から長袴が考案され、
 それをはかせて各人を動きにくくした~


筆者にはその経験がありませんが、「長袴」を履くと雑巾がけをしながら
廊下を歩くようなものですから、実際動作には大きな困難が伴ったようです。
それが証拠に、前の人の長袴の裾を誤って踏んでしまい、前の人がひっくり
返るという事故も少なくなかったとされています。

そういうことなら、当然逆のケースもあったはずです。
つまり、後ろの人が自分の長袴を誤って踏んでしまい、自分がつんのめって
ひっくり返るという事故です。

長袴の不便はこれだけではなく、ほかにも色々あったようです。
例えば、こんな具合です。
~雨の日に江戸城に登城して屋外を歩く場合、長袴を濡らさないためには、
 長い裾をたくし上げて結び付けるという、メッチャ不格好なスタイルに
 ならざるを得なかった~

もっとも、長袴の裏にはそのための短い紐が必ず付けられていたそうですが。

また、その折には否応なく脛を露出させることになるため、雪なんぞが
降ろうものなら、寒さで震え上がってしまった方々も少なくなかったようです。
特に年配の大名なぞは小用の方も俄然近くなったに違いありません。

では、~そんな「長袴」姿で、トイレはいったいどうしたのか?~
ましてや、みな「御殿様」の面々ですから、こうした異様な?衣装を自分
だけで器用に脱いだり着たりできたとも思えません。

そこはそれ、衣装脱着不要の便利?なツールがあったのです。
その名称はずばり「尿筒」(しとづつ)・・・要するに、これを「長袴」の
裾のゆとりから差し込み、立ったまま静かに放出、そして完了。
その「尿筒」は竹製・銅製などで、長いのは1メートルほどもあったそうですが、
まあ現代風にいうなら、「携帯尿瓶(しびん)」といったところでしょうか?

でも、やたらと立派な衣装を着ながら、脛出しルックになってしまったり、
携帯尿瓶?で用を足すなんて、全体的にはなんとなく落胆の気配が漂う光景
ですよねぇ。




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