日本史の「言葉」29 米語は結構早口らしい

いわゆる「お雇い外国人」の一人である、ジェームス・カーティス・ヘボン
(James Curtis Hepburn/1815-1911年)は、日本人が自分の名を「ヘボン」
と呼ぶことを嬉しがったばかりでなく、それを漢字で「平文」と書き表す
ことも気に入っていたそうです

医療伝道師・医師であるこのアメリカ人は、日本では「ヘボン式ローマ字の
考案者としても、その名をよく知られているところです。
ちなみに、シをsiではなくshi、チをtiではなくchi、ツをtuではなくtsuと
書く方法を「ヘボン式ローマ字」と呼んでいます。

さて、そのヘボン氏が「ヘボン/平文」を、大変気に入っていた理由は、
この日本語発音がオリジナルの英語発音に近くて、この他の発音ほどに
大きな違和感を覚えないで済んだからとされています。
おそらくは、現在でしたら大女優のキャサリン、あるいはオードリーの
例を挙げるまでもなく、「ヘップバーン」ほどの発音であり、またその
カタカナ表記になっていたことでしょう。

逆に言えば、この「ヘップバーン」という発音や表記について、
ヘボン氏自身は、元の発音とはあまりにもかけ離れていると感じていた
ということになります。
ヘボン氏に関わるこんなエピソードを枕にして、「逆説の日本史」の著者・
井沢元彦氏の日本史のお話は進んでいきました。
えぇ、ちょっとお話を聞く機会に恵まれたのです。

もちろん、そのお話は日本史に関することがテーマですから、その前段
では、外国の文字を取り入れた日本民族が、次第に自家薬籠中のものに
していった、世界的にも特異な歴史にも触れています。

たとえば、李白(701-762年)の詩の、中国語と日本語の読み比べも
試してみました。
同じ文字が並んだ文面ながら、中国語と日本語では、読む音韻はまるで
違ったものになるわけですが、ところがその意味合いについては
ほぼほぼ共通の解釈が成り立っているのです。

不思議と言えば不思議なことですが、それだけに外国文字の受容の方法が
世界史的にも珍しいパターンと言われるのも無理はありません。
しかも、さらに不思議なのは、かつては漢字という文字を中国から「輸入」
する立場にあった日本が、明治時代(1868-1912年)にもなると、そうした
漢字を組み合わせて新しい言葉を続々と創作するようになり、さらには
その「造語」を中国がワンサカ「逆輸入」し始めたいう事実です。

この段の例に挙げられたのは、哲学者・教育家の西周(にし・あまね
/1829-1897年)が造語した英語の日本語訳でした。
哲学/心理学/倫理学/経済学/物理学/化学/幾何学/主観・客観/
感覚/意識/記憶/肯定・否定/などなど。
このような形で、西を含む日本人が創作した言葉は、優に1,000ほどには
なるそうです。

ところが、そうしたお話の流れの中に、英語の発音に関したちょいと
面白い話題も混じり込んでいたので、ちょいとその一部を紹介しておく
ことにします。 折角ですからねぇ。

主にアメリカで使われている言葉ですから、英語というよりは米語と
言った方が分かりやすいかもしれませんが、この米語はイギリスが使う
英語に比べると、総じて「早口」な傾向があるそうです。

その証拠物件?として、一つの歌曲が披露されました。
クリスマスの時期に世界中で歌われているクリスマスソングの代表作の
一つである「ジングルベル(Jingle Bells)」です。
12月ということもあって絶好のタイミングですが、ちなみにこの歌曲の
コーラス部分の歌詞はこうなっています。

  Jingle bells, jingle bells,
  Jingle all the way!
  Oh! what fun it is to ride In a one-horse open sleigh.


macarther_general_01.jpg itami_jyuuzou_01.jpg
「蛇の目傘」マッカーサー元帥/「湯煙夏原」伊丹十三

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もしアナタが普段は英語を使っていない人だとしたら、一行目二行目は
ともかくとしても、この三行目をうまく歌いこなせるかというお話です。 
大抵は上手く歌えず、ここで舌がもつれてしまいます。

普段はバイリンガルであることを自慢している筆者にしてからが、目の前で
歌詞を参照しながら聞き耳を立てても、その目が歌詞を追い切れません。
もっとも、断っておくなら、筆者のバイリンガルとは日本語と尾張弁の
二刀流のことですがね。

言い換えれば、普段英語を使っていない人にとって、この三行目の歌詞は、
メッチャ早口言葉に感じられるというわけです。
そして、こうした米語を聞き取る難儀さは、日本民族が英語(米語)と
接触した時からの宿命でもあったようです。

それに絡んだいくつかのエピソードが披露されました。
まずは、江戸後期に漂流漁民となり、その後帰国を果たすや、幕末期には
通訳・教師として活躍したジョン・万次郎こと中浜万次郎(1827-1898年)
の場合です。

これは、結構有名なお話のようですが、
What time is it now?(今何時?)」を、万次郎は自分の耳に聞こえた
通りに「ほった芋いじるな」と発音して、周りの者にきっちり通じたと
されています。

この英語文章を眺めて、英語に遠い日常にいる現代日本人で
「ほった芋いじるな」に近い発音で読める人は、おそらく少数派に違い
ありません。
なにせ、「へボン」より「ヘップバーン」の方を好む国民性ですからねぇ。

~ジョン万次郎は、英語を覚えた際に耳で聞こえた発音をそのまま
 発音していた~
 少し調べてみると、こんな説明もあって、その例として、
「こーる=cool」、「わら=water」、「さんれぃ=Sunday」、
「にゅうよぅ=New York」などが挙げられていました。

しかし、早口もどきの米語に悩まされたのは、幕末期の万次郎ばかり
ではなかったようです。

時代は少し下りますが、昭和の太平洋戦争(1841-1945年)に敗戦した
日本に、アメリカを中心としたGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が
乗り込んできました。

そして、特にこの占領期間中(1945-1952年)という環境にあって、
生の米語あるいは最新ニュースに触れたいと思う日本人の多くは、
FEN(極東<軍事>放送網/Far East Network)のラジオ放送に熱心に
耳を傾けました。 

そんな中の一人に、この当時は進駐軍の通訳もどきの仕事もしていて、
後に日活の映画スターとなった二谷英明(1930-2012年)がいたそうです。
彼もまた、このFEN放送を相当熱心に聴いたとされています。

ところが二谷には、繰り返し頻繁に登場する単語でありながら、なんと
言っているのか、どうにも聞き取れない言葉がありました。
音としては日本語の「蛇の目傘」に聞こえるものの、米文章としては
意味をなさない。
この「蛇の目傘」っていったい何のことだ?
しばらくの間はとんと分からなかったそうです。

しかしある日のこと、ついに答えに辿り着きました。
「蛇の目傘」とは、なんと連合国軍最高司令官・マッカーサー元帥のこと
だったのです。
ラジオ放送の音声「General MacArthur/ジェネラル・マッカーサー」が
二谷には「蛇の目傘」と聞こえていたわけで、米語はそのくらい
早口めいた言葉であるという面白いエピソードです。

映画関連ではもう一人、英語に堪能な俳優であり、また映画監督としても
大きな成功を収めた伊丹十三(一三/1933-1997年自殺)氏のエピソードも
紹介されました。

俳優としては、当時のビッグスターであるチャールトン・ヘストン主演の
1963年「北京の55日」(監督:ニコラス・レイ)や、イギリスの名優
ピーター・オトゥールが主演した1965年「ロード・ジム」(監督:
リチャードブルックス)などに出演し、監督としては1984年「お葬式」や
1987年「マルサの女」で大ヒットと飛ばしています。

その伊丹氏にしてからが、当時爆発的人気を博したロック歌手エルビス・
プレスリーが歌う1956年「ハウンド・ドッグ」の出だし部分の、
You ain't nothing but a hound dog という歌詞を正確に聞き取ることが
できなかったようです。

では、伊丹氏の耳にはどのように聞こえていたのか?
どうやら、「湯煙夏原(ゆえんなつはら)ハウンドドッグ」ほどだった
そうですが、試しに改めて聴き直してみると、確かに「湯煙夏原
なんですねえ、これが。 いやぁ、驚きました。

というわけで、今回は純日本史からちょいと離れた位置でのタメになる
・・・気がしないでもないお話を持ち出した次第です。


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