日本史の「トホホ」27 タケル氏の異色な境遇と病質

「古事記」では主に「倭建命」※、「日本書紀」では主に「日本武尊」※と表記
されるそうですが、第12代・景行天皇の息子であり、第14代・仲哀天皇の父に
当たる人物を、分かりやすく「ヤマトタケル」と呼ぶこともあります。
※「倭建命/日本武尊」はいずれも(やまとたけるのみこと)と読むそうな。

父も天皇、息子も天皇という血筋であれば、その中間の「第13代天皇」には
当然このタケルが収まったものと考えるところですが、ところがドッコイ、
実はタケルの弟が、その「第13代」(成務天皇)に就いています。
つまり「ヤマトタケル」は、天皇の地位に一番近いところにいながら、なぜか
天皇になれなかった人物ということになります。

身辺調査?をさらに進めるなら、息子である「第14代・仲哀天皇」の妻に
収まっている女性が、何を隠そう、あの女傑「神功(じんぐう)皇后」なのです。
妊娠中のお腹に石を巻くことで、出産時期を数か月も遅らせたというお話で
有名な皇后ですが、この無謀な?行為は、当時最大の課題であった
「三韓征伐」※を成し遂げるまで出産を遅らせるためだったと説明されて
います。   ※「三韓」とは、朝鮮半島の新羅/高句麗/百済

しかし、お腹に石を巻いたくらいで出産時期を自由に調節できるとも
思えませんから、この辺りは史実というよりは、やはり伝説の域を出ない
お話なのでしょう。
そして、もう少しツッコミを入れるなら、出産時期を「調整」?していることは、
~ほんなら、応神天皇の父親は、本当に仲哀天皇なの?~という疑問にも
直結します。

仲哀天皇が亡くなってから応神天皇が誕生するまでには、「十数ケ月」の
月日の開きがあるわけですから、常識的にはこの両者が父子の関係に
あるとは思えません。 ですから、
~神功皇后は、すでに仲哀天皇の子を宿していたのだけれど、政治課題が
  山積していたため、やむなく「出産時期」を遅らせました~
という公式発表が
必要になったということでしょう。

つまり、天皇家が自ら主張する「万世一系」をつなぐためには、
~15代・応神天皇の父親は間違いなく14代・仲哀天皇です~という状況が
なにがなんでも必要ですから、こうした常識外れの「超長期間妊娠」?を
持ち出したようにも受け取れます。

しかし、そうした小細工?は必ずしも万人の納得を得られるものでも
ありません。
事実、それまでの「万世一系」はこの時点で途絶え、王権が応神天皇系に
移った、つまり「王朝交代」があったと見る向きも少なくないようですから、
その意味では「ヤマトタケル」なる人物は、幾分ミステリアスな時期に
登場しているとも言えそうです。

さて、今度は、ヤマトタケルが天皇になれなかった理由ですが、これには
父・景行天皇との間に生まれた齟齬?確執?を挙げることができそうです。
「小碓命」と名乗っていた若い頃のタケルは、実は「父の言葉」に従って、
双子の兄「大碓命」を殺害しています。

それも、~捕まえ押し潰し、手足をもいで、薦に包み投げ捨て殺害する~
しかもその上に、~(殺された)大碓命は父・景行天皇の寵妃を奪った~
説明されていますから、この頃の天皇家はいささか風紀紊乱の様子だった
ことが想像されるのですが、この殺人事件?の直接的な原因は「言葉の解釈」
の違いにあったようです。

父・景行が発した具体的な言葉までは知りませんが、その時の両者の間
には「言葉の綾」というべき「解釈違い」が生じました。
例えば、こんな場面をイメージするなら、まあ「当たらずと雖(いえど)も
遠からず」
と言ったところかもしれません。

たとえば、「黙殺する」。
常識的には「無視する」ほどの意味であり、まあ普通はこのように解釈する
人の方が多数派でしょうが、これを字面に従って「黙って殺す」ことと特異な
解釈をする。
あるいは、「一泡吹かせる」の場合なら、普通は、
~不意をついたり、予想外のことで、相手を驚かせ狼狽えさせる~ほどの
意味に理解するものですが、これを字面通りに、
~(実際に口から)泡を吹かせること~と解釈し、そのために相手に無理やり
石鹸水を飲ませる行動に出る・・・こんな感じでしょうか。

つまり、父・景行天皇が慣習的な意味で使った言葉に、タケル(小碓命)は
いささか常識外れの解釈を下し、そのことが思いもかけない殺人事件を
招いてしまったことになりそうです。
ひょっとしたら、ヤマトタケルには、思考の柔軟性に欠けるというか、人間の
常識に対する理解が十分でない一面を持っており、そのアブナサが天皇に
なれなかった一因だったかもしれません。

日本武尊01 白鳥御陵01








日本武尊(ヤマトタケル)像/「白鳥御陵」(名古屋市熱田区)

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父・景行天皇は、自分の言葉を当たり前に理解できず「兄殺し」にまで
突っ走ったタケルを、すっかり危険視しました。
~タケルは乱暴だけでなく、心理面でもある種の病質を抱えているのでは?~
こんな危惧を抱いたなら、このまま自分の傍に置いておくことは危険との
判断も目芽生えます。

そこで父天皇は、タケルに対して、まずは九州出張?を命じました。
出張の目的として~未だまつろわぬ「熊襲」の征伐~を挙げています。
至極まっとうな任務ですから、タケルもこれには素直に従い、強敵・熊襲に
対し、「女装」という斬新?で奇抜?な手段を用いて、これを成功させて
います。

このように一段落がつけが、次には晴れてタケルの凱旋です。
ところが、父天皇は熊襲征伐というタケルの手柄をねぎらうどころか、
休む間も与えず、すぐさま次の使命を与えました。
~これで西方は一応の一件落着を見たが、まだ東方にもまつろわぬ蛮族が
  おる・・・今度はそちらの征伐じゃ!~


パワハラめいた過酷な業務命令?の連続には、いささか常識に鈍感な
タケルもこんな疑心暗鬼を抱いたようです。
~ひょっとして、父天皇は自分の死を願っているのでは?~
公平に見れば、タケルのこの直感は間違っていなかったのでしょう。

こうした征伐遠征の連続は、タケルを肉体的にも精神的にも限界に
追い込んでいきました。
しかし、ともかく直属上司?から直接に申し渡された「業務命令」?です
から、放り出してしまうわけにもいきません。
そこで、伊勢神宮の斎王を勤める叔母(倭比売命)を訪ね、その折授かった
剣などの装備を整えて、再び「蛮族の征伐」に出かけました。
ひょっとしたら、この叔母に愚痴をこぼしたかったのかもしれません。

しかし、ここから先のタケルの行動はまさしく英雄譚と表現してよさそうで、
相模の国で敵の火攻めに遭うや、携帯した「剣」で周りの草を薙ぎ払い、
迎え火を点けて逆襲したことや、敵を斬り殺した敵の死体に火をつけ
焼いたことも語られています。
またそうしたことから、その地名が「草薙/焼津」となり、それまで
「天叢雲剣」(あめのむらくものつるぎ)と呼ばれていた神剣にも
「草薙剣」(くさなぎのつるぎ)という別名が生まれたとされています。

征伐作戦はその後も続き、「科野」(しなの=長野県)でも平定を成功させた後、
タケルは「尾張」(おわり=愛知県)に入りました。

この時、タケルは結婚に踏み切っています。
お相手の名は「美夜受比売」(宮簀姫/みやづひめ)。
もっとも、この時代のことですから、数人の妃を持った上での結婚です。
ひょっとしたら、アナタなぞは羨ましいと感じるかもしれませんが、そこは
それ、「アナタの生まれた時代が悪かった」と諦めてください。

念のために付け加えておくなら、タケルの息子である第14代・仲哀天皇の
母親は妃「両道入姫皇女」(ふたじいりびめのひめみこ)ということで、
この尾張妻?である「宮簀姫」とは別人です。

さて、その後のことになりますが、どんな事情があったものか、タケルは
この「草薙剣」を置いたまま、つまり非武装姿で伊吹山(岐阜・滋賀県境)の
平定に出立しました。
武器無しですから、案の定、ボコボコに返り討ちされ、帰路途上
(三重県・四日市市辺りか?)でこんな弱音を吐く羽目に。
~吾が足は三重の曲がりなして(三重にも折れ曲がって)、メッチャ疲れたり~
「メッチャ疲れたり」の感想の通り、その直後(三重県・亀山市辺りか?)に
亡くなりました(享年30歳?)。
実は「三重」という地名は、タケルのこの弱音から誕生したとされています。

思えば、ヤマトタケルは自身の「言葉の解釈」の特異性?から、
「父天皇のパワハラ」を招き、そのことによって「天皇になれなかった」
ことにもなりそうです。
ということは、「相手の言葉(のアヤ」を正しく受け止める」だけの常識・
教養が、人間にとっていかに大事なのかを、このヤマトタケルは身を
もって教えてくれている、ということなのかもしれませんねぇ。



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