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zoom RSS 日本史の「信仰」08 時代は殉死を御法度に

<<   作成日時 : 2017/08/10 00:01   >>

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病死にせよ自然死にせよ、主君が亡くなった場合に家臣・従者や近親者が
その死を悼んで「追い腹を切る」、いわゆる「殉死」は、戦たけなわの
「戦国時代」にはあまり流行らなかったそうです。
この時代に戦さ以外の理由で死んでしまったのでは、その分だけ戦力を低下
させてしまうわけですから、考えてみれば当然なのかもしれません。

ところが江戸時代に入ると、天寿を全うし自然死した主君に対しても身近な
家臣などが「追い腹を切る」、つまり「殉死」をするようになり、以後しばらくは
これが流行しました。
名誉ある「戦死」の機会が無くなってしまった平和な時代の中で、己の持つ
「武士(もののふ)魂」をアピールしようとすれば、こういう手段しか残されて
いなかったということでしょう。

中でも、仙台藩初代藩主・伊達政宗(1567-1631年)が亡くなった時なぞは、
先立って「追い腹は御法度」としていたにも拘わらず、家臣15人のみならず、
そのまた家臣すなわち陪臣の5人までもが、その「殉死」を果たしたそうです
からハンパではありません。
それどころか、江戸初期の佐賀藩初代藩主・鍋島勝茂(1580-1657年)に
至っては26人もの殉死者が出たといわれているほどです。
(それでも、殉死者数「日本最高記録」?というわけでもなさそうですが)

ところがこうした行為が「流行」?の域を超えて、「社会通念」にまで定着
し始めると、今度は「殉死の禁」令(1665年)が出されています。 
〜殉死の多発は、優秀な人材の喪失に直結する〜
こうした現実的で切実な理由があったのでしょう。

しかし、もう少し違った目線で眺めるなら、武士自身の意識の変化も見逃せ
ません。 〜主君は一代(限り)、御家は万代(続く)〜 
つまり、
〜我は主君一人のための家臣ではなく、御家そのものに仕えている身である。 
  よってもって、主君が亡くなったからといってサッサと殉死に走ったのでは、
  「御家にお仕えする」という本来の趣旨に反し、親不幸ならぬ「御家不幸」に
  なってしまうわい〜


とはいうものの、この頃にはまだまだ殉死を美風と捉える空気が幕閣内部にも
残っていたようで、この「殉死禁止」の命令もきちんとした成文法にまとめた
わけではなく、武家諸法度の改定公布とセットにして「口頭伝達」で行われ
ました。

要するに、法令を作る側にも、時代の空気には逆らえないという思いがあった
わけで、そこで結果的に、「何もしない」と「成文法にする」の両方を足して二で
割る「口頭伝達」という方法をとったと思われます。

この「殉死禁止」の条文を、きちんとした「成文法」として武家諸法度に盛り込む
ことができたのは、これより十数年後の1682年のことでした。
「戦国時代」の生き残りがすっかりいなくなった時代になっても、こんな按配なの
ですから、人間の意識なんてものは一朝一夕でたやすく切り替わるものでも
ないようです。

伊達政宗53 鍋島勝茂01











仙台藩初代藩主・伊達政宗/佐賀藩初代藩主・鍋島勝重

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ところが、それから数百年も経って現代ともなれば、一時期のご先祖様達が
熱を上げた?この「殉死」そのものが大変に分かりにくいものになって
います。 
〜いったい、「殉死」することにどんなメリットがあるっていうの?〜
実際ここら辺は、現代人にとっては分かりづらい一面があります。

現代人が無駄?とも感じかねないこうした死があったことに対して、
現代人自身が「合理的な理由」を見つけられないとしたなら、ご先祖様達と
現代日本人の感性の違いと言ったらいいのでしょうか。 そこには合理性を
超越した信仰・宗教的な理由があったと考えられます。
日本人の場合に限れば、その有力な候補として、その昔の昔から連綿と
続いてきた「怨霊信仰」が挙げられるのかもしれません。

〜生前には家来達を従え活動を展開していた本人も、死んでしまったことに
  よって、そうした環境を失い、さぞかし無念で寂しい思いを抱いていること
  だろう。 だったらそれが「怨霊化」して暴れ出さないうちに、早めに有効な
  手を打つべきだ〜


まったくの思い付きに過ぎませんが、残された人間はこう受け止め、これを
慰める「鎮魂」の手段として、生前通りに「家来がいる」状況の復元を模索した
のでは?

つまり、死後の「主君」も生前と同様に「家来」を持てるし、また「殉死」する
「家来」の側も同じく「主君」を持てる。 
これなら、この世に別れを告げる双方の寂しい思いも和らぐことになり、結果と
して「怨霊化」を防ぐことができる・・・こんな感じです。

もっとも、「武士に怨霊なし」という意識もあったそうですから、必ずしも断定
できる考え方ではないのかもしれません。
しかし、そこはそれ、昔の昔から「本音」と「建前」を上手に使い分けてきた
日本人のやることです。
口では建前の「武士に怨霊なし」を唱えながら、それとは別に本音として、
意識の底に「怨霊信仰」を抱いていたとしても不思議ではありません。

しかしともかく、こうした「殉死」に対して、現代日本人が適確に理解できる
かといえば、ちょっと難しいのでは?
なにせ、〜人間の命は地球より重い〜 これを国是?常識?としているの
ですから無理もありません。
さらには、その数ゆうに一億人を超える現代日本人の中に「殉死」の経験を
持つ人が一人もいない、という現実もあります。
何を隠そう、筆者も「殉死」未経験の未熟者の一人です。

さて、こうした崇高な「殉死」に「水を差す」かのような言葉で恐縮ですが、
こんなことを言った人もいるようです。
〜殉死とは、才能なくして有名になる唯一の方法である〜
言葉の主は、20世紀に生き「皮肉屋」とも評された人物、あるバーナード・ショー
(1856〜1950年/イギリスの劇作家)ですから、一筋縄でない、なかなか
に辛辣な見方を示しています。

ただし、念の為に申し添えれば、これはショー自身が見聞きした、おそらくは
ヨーロッパの「殉死」についての見方であって、「追い腹を切る」という日本の
スタイル「殉死」について語ったものではないのでしょう。

さらに「水を差す」努力を重ねるなら、「殉死」とは全く次元が異なるものの、
現代日本では、死後の相互関係において、こんな意識が芽生えている
とか? 長年連れ添った夫婦間の、妻側の言い分です。

〜連れ合いと(夫)と同じ墓に入るなんて、死んでもイヤだわ!〜
この感性を驚きを持って受け止めているようでは、現代社会を生き抜いていく
ことはなんぞはできやしませんゼ!
主君に寄り添う形の「殉死」が脚光を浴びた時代とは、真逆の現代になって
いる現実を、死ぬまでにはしっかり自覚しておきなさいヨ、おのおのがたッ!



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