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zoom RSS 日本史の「付録」01 旅人よ隠密バイトはいかが

<<   作成日時 : 2017/06/05 00:01   >>

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「隠密」(おんみつ)とは、こう説明されています。
〜主君などの密命を受けて秘かに情報収集などに従事する者〜 
要するに「隠れて秘密裏に」というところがミソですから、現代風にいうなら、
「スパイ稼業」、つまりは秘密諜報員/地下工作員/産業スパイもどきの
イメージになるのでしょうか。

その所属団体?というか雇い先は幕府/諸藩/その他など諸々あるものの、
平和だった江戸時代にも、こうした活動は結構盛んに行われていたようで、
たとえば「幕府隠密」が全国大名の素行調査に当たった結果をまとめたと
される書物※さえ残されています。
もっともそこはそれ、「隠密」にふさわしく、製作目的もまた編著者名も不明と
されているようですが。
※「土芥寇讎記(どかいこうしゅうき)」/元禄初期(1690年頃)に書かれた?

さて、書類や手紙など文書系の情報入手はともかく、巷の生きた情報を収集
しようとするなら、隠密自身の「言葉」の理解が欠かせません。
「標準語」という意識が浸透し始めたのは明治以降のことに過ぎず、おそらく
この時代は、他国人には聞き取れないほどに生々しい現地言葉?(方言)が
全国津々浦々にまだまだ溢れていたはずだからです。

この「現地語習得」が不十分で、もし的確に理解できなかったとしたら、折角
入手した情報に対する齟齬を生みかねず、これでは情報の的確な獲得とは
いえないわけですから、諜報活動は現地言葉をマスターすることから始まると
いってもいいのでしょう。

たとえば、尾張国の町人が何気に発した言葉。
〜さあみんな、そろそろ花見に行くマワシをしよみゃあか〜
これが、尾張弁が不得手な隠密Aの報告だと、
〜花見に行く町人達が「マワシ」をしていくそうですから、現地会場では
  「相撲大会」が企画されている公算が大です〜

ところが、それが達者な隠密Bの報告はこうなります。
〜町人たちが花見に行く「仕度(したく)」を始めました〜

「マワシ」という言葉を、隠密Aは相撲の「まわし(廻し)」と理解したのに対し、
尾張弁に堪能な隠密Bは、それを「仕度」のことだと適確に聞き分けられた
わけです。
さらにはこんなケースもあり得ます。 顔見知りに出合ったとき、
尾張人〜おぅおぅ・・・ダレダシャンと思ったがや〜

この言葉に対する隠密Aの報告。
〜蘭語もしくはフランス語、あるいは仲間内の隠語と思われる“ダレダシャン”
  なる言葉を使っているからには、いわゆる「蛮学社中」※の一味である
  可能性が極めて濃厚ですッ!〜

これに対する隠密B報告は、
〜久しぶりに会ったのか、「誰かしらと思ったゼ」なんて軽口交じりの挨拶を
  交わしていました〜

※国学者側が「蘭学を学ぶ者達」を「蛮学を学ぶ社中(グループ)」と呼んだ。

キリがないのでもう止めますが、こうした言葉誤認・情報錯誤のリスクは全国
共通だったはずです。 
さりとて、現地語に堪能なローカル隠密を「幕府」自身の手によっていちいち
育成していたのでは、とてもじゃないが時間もかかるし金もかかる。 

そこで以下はかなりご都合主義の推測になりますが、この課題に取り組んだ
幕府はこんなアイデアに辿りついた・・・のではなかろうか?
〜アウトソーシング(外部委託)という手があるじゃないか!
 それにこの方法なら隠密自身が現地語を習得する必要もないゾ!〜


ムービー007−51 松尾芭蕉52













映画「007」ジェームズ・ボンド/松尾芭蕉(門弟・曽良)

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そして、そのアウトソーシングの発注先を「旅行者」の立場にある人たちに
求めました。 理由は単純。
〜諸国遍歴中の者なら、難解な現地語?が話せないのも当然だし、むしろ
  その遍歴に対する興味や好奇心を抱いて、現地人?の方から話しかけて
  くる機会も増えよう・・・結果、豊富かつ濃密な情報を耳にし収集できると
  いうものだッ〜


では、具体的にどういう人達に目を付けたのか?
分かりやすい例として、娯楽分野ならまさにこうした諸国遍歴を日常として
いる旅芸人。 芸術分野なら、各地で同好の士を集め頻繁に会の開催を
繰り返す連歌師・俳諧師など。 
この他にも、諸国への取材旅行(遍歴)が欠かせない、風景画の画家なども、
こうした「隠密バイト」?の有資格者です。

そこで、こんな人たちに「隠密説」が囁かれることになります。
たとえば、門弟・河合曽良を伴って出た奥州旅行の紀行文「奥の細道」で
有名な俳諧師・松尾芭蕉(1644-1694年)。

また、改号30回?転居93回?の上に、長期旅行を頻繁に繰り返したことで、
当時の人名録には「居所不明」と記載されてしまうなど、数多の奇癖の
持ち主だった天才画家・葛飾北斎(1760?-1849年)。

さらには、長大な探検旅行の末に、樺太 (サハリン)が島である事を確認し、
「間宮海峡」を発見した探検家?間宮林蔵(1780-1844年)・・・などなど。
こうした著名人に対して、現在なお「隠密説」が根強く囁かれているわけ
ですが、その共通点は長きに渡って「旅行者」、つまり「諸国遍歴者」の境遇に
あったことです。

ただ「隠密」の所属団体・業務内容・関り方などには、それこそケース・バイ・
ケースの多種多彩なバリエーションがあったものと想像されますし、こうした
こともまた「隠れて秘密裏に」の大原則からすれば、詳らかにされないのは
当然ですから、上記の人達に対して囁かれる「隠密説」を、間違いなく
確かなものだとは言い切れません。
ただ、仮にそうした雰囲気の中にいた人物だったとしてもそれほど奇異な
印象にならないのもまた事実です。

ちなみに、これがフィクションの世界の「スパイ」となると、読者・観客に
対するサービスということもあってすべてが明らかにされています。 
たとえば、ジェームズ・ボンドなる人物は、「イギリス秘密情報部(MI6)」に
所属し、「殺人のライセンス」を有するコードネーム「007」を与えられた
「工作官」・・・といった具合です。

蛇足ですが、以下は近所のオジサンから頂いた貴重な時代証言です。
このジェームズ・ボンドを主人公にした映画「007」シリーズの最初の作品が
「007は殺しの番号」(1962年)の邦題で公開され評判になった頃、子供達には
こんな言葉遊びもあったとか。
〜「0035半殺しの番号」なんちゃって・・・いやあ良き時代だったナァ〜



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