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zoom RSS 日本史の「お国自慢」15 愚直と創意ふたりの作者

<<   作成日時 : 2016/10/20 00:01   >>

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戦国の覇者・織田信長(1534-1582年)の一代記「信長記」には、
太田牛一(1527-1613年)の手によるものと、これとは別に
小瀬甫庵(1564-1640年)が著したものがあります。
両者を区別するために、一般的には
牛一版を「信長公記」(1600年頃?)、甫庵版を単に「信長記」
または「甫庵信長記」(1611年頃?)と呼んでいます。

また、その読み方については、「しんちょうき/のぶながき」の
どちらでもよいとされているようですが、やはり「しんちょうき」の
方が妥当だと思われます。
なぜなら、ご本人の「諱」(本名)を軽々しく口にすることは
非常識とする意識が、この頃(江戸時代初期)にはまだまだ強く
残っていたはずだからです。
要するに、いかに書名に過ぎず、また既に亡くなった方の名とは
いえ、モロに「諱」で「のぶなが・き」と読むことはさすがに憚る
ものがあっただろうと思われるのです。

さらにこれとは別に、牛一版のタイトル「信長公記」を、
「信長/公記」と理解し、これを信長に関する「公の記録」と
受け止める向きもあります。
しかし、これはおそらく「信長公/記」であり、つまりは
「信長公の記録」と解釈するのが正しいと思われます。
国家や幕府に無関係な民間個人の立場にあって、著者・
太田牛一がこれを著しているからです。

さて両書の年代を追うなら、先に出ていた牛一版「信長公記」
参考にして書かれたものが甫庵版「信長記」ということになり
ますが、実はその執筆態度には正反対の姿勢が見られます。
その点をご本人たちに語っていただきましょう。

牛一〜私の書くものに作り話は一切ない。 もし一つでも偽りを
     書けば天の怒りを買うであろう〜 「信長公記/序文」
甫庵(牛一氏の)文章は「愚にして直」だ。 創作性も無く、
     事実をなぞっているだけの無味乾燥な内容だ〜

この違いを多少乱暴に言い切ってしまうなら、
牛一が「歴史ノンフィクション」を目指したのに対し、
甫庵は「歴史エンターテイメント」であることに力点を置いたと
いうことになるのかもしれません。

しかし、これはあくまでも現代人の目線であって、この時代には
まだまだこうしたことを区別する意識が成熟していなかったと
思われます。
なにせ、この「甫庵信長記」読者?の一人でもあった旗本・
大久保彦左衛門忠教(1560-1639年)がこんな憤慨を漏らしている
ほどですから。
(甫庵の)「信長記」にはウソが多い。 1/3はあったことで
  1/3は似たことがあったが、1/3はまったく無かったことだ〜


ちなみに、この彦左衛門は信長と重なる時代の人物で、自らの
著「三河物語」(1630年頃?)の中で、この言葉を使っています。
要するに、現代目線で眺めた場合、彦左衛門自身は
「ノンフィクション」と「エンターテイメント」を区別する意識を持って
いなかったと考えられるわけです。


信長公記01 安土城文化村51






信長公記/安土城文化村

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しかし、現代人がこの彦左衛門の感覚を、「時代遅れ」と嗤える
かといえば、決してそうでもありません。
史実「赤穂事件」(1701-1703年)とドラマ「忠臣蔵」をゴッチャに理解
している現代人も少なくないのですから、その意味では、実は
彦左衛門と「どっこいどっこい」のレベルなのです。

つまり、先の彦左衛門に倣えば、こんなナンセンスな批判に?
〜「忠臣蔵」にはウソが多い。 1/3はあったことで
  1/3は似たことがあったが、1/3はまったく無かったことだ〜


それはともかく、お話を「信長公記」に戻せば、信長に仕える
ようになってからの牛一は、間近で見聞きした主君・信長の姿を
なんでもかんでも書き記しました。
幾分メモ魔・日記魔的な性癖を備えていたのかもしれません。
こうした記録が「信長公記」を著す際の基礎資料になっています。

例えば、最強武田軍団との決戦「長篠の戦い」(1575年)の詳細
や、信長の居城「安土城」(1576年)の内部の様子などを含め、
信長の15年に渡る天下取りの足跡が現代まで割合詳しく
伝わっているのは、こうした牛一のこまめなメモ・日記のお蔭と
言っても過言ではありません。

それだけに留まらず、本気で「信長公記」に取り組むように
なってからの牛一は熱心な「取材」活動も行っています。
自分が立ち会えなかった「本能寺の変」(1582年/天正 10 年)
真相を知るために、信長に帯同し生き残った女人衆や僧にも
接触し、直接の「聞き取り調査」?をしているのです。

この時の女人衆(あるいは僧)から得られた証言の一つが、
信長最期の言葉とされる「是非に及ばず」です。
これは、現代でも「本能寺の変」を扱ったドラマでは必ず登場
すると言っていいほどのセリフになっていますが、元を辿れば、
牛一の真摯で熱心な取材があってのことだったわけです。

もっともこの時、信長が普段着の言葉(尾張弁)を使っていたら、
〜今さら、ああじゃこうじゃと言っても始まれせんがやッ!〜
この程度のセリフになっていたはずですが。

さて、その「信長公記」はこんな構成になっています。
○首巻 自領・尾張また隣国・美濃および周辺地域の政情/
      上洛するまでの信長の経歴など
○第1〜15巻 上洛(1568年)→「本能寺の変」(1582年)迄の事績
これを、出来事を年代順に記す「編年体」で記述しています。

つまり、牛一が信長に仕えた15年間の記録を、全15巻(1年1巻)
に収めたこの作業に20年以上を費やしたわけです。
そして最終15巻に着手したのは、牛一が齢70代半ばを迎えて
からのこととされています。
なにせ、「人間50年」と言われた時代の70歳代ですから、現代
なら、さしずめ90歳を超えてなお執筆活動に取り組んだような
感じでしょうか。 

ですから、太田牛一の気迫が「信長公記」を著したと言っても
過言にはならないでしょう。
その「ノンフィクション作家」の牛一さん、実は筆者の生息地で
ある現:名古屋市に当たる地域のご出身とのことで、これを
今回の「お国自慢」としておきます。 
それにしても「牛一」とは、ちょいとばかり珍しいお名前ですね。




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