日本史の「アレンジ」19 科挙より素敵な選び方?

国家を安定させ長い繁栄を保つためには、特にその中枢を担うべき官僚に
優秀な多くの人材を必要とするものです。
このあたりを、うっかりスカタンな人間に任せようものなら、たちまちに国が
傾きかねないことはどの国にとっても一種の常識と言っていいのかも
しれません。

ただ、その優秀な人材を選ぶ方法が問題です。
他人よりズバ抜けて背が高いからといって優秀な人間とは限りませんし、
筆者のように想定範囲を超越した音痴だからといって、必ず劣等生と
決めつけられるものでもありません。

そこで、儒教の本場「中国」では、その方法として「官僚登用試験」を採用
しました。 
要するに、人間の優劣を、その本人が習得した学識のレベルで決めようと
した仕組みです。
それが「(試験)目による選」つまり「科挙」と呼ばれる方法であり、
これははすでに「隋」王朝(581-618年)の時代には始まっていたようです。
~家柄や身分に関係なく誰でも受験できる公平な試験で、才能ある
  個人を官吏に登用する制度~

実際には建前上に限ったことでしたが、「家柄や身分は不問」とした点は、
当時としては世界的にも非常に革新的な方法でした。

ただ、試験の競争率は、最盛期には約3000倍にも達したそうです。
半端でなく難しい試験・・・そのため、一生を費やしても合格できなかった
受験者が大多数を占めたとされていますし、それどころか、中には厳しい
受験勉強の過酷さに耐え切れず、心や身体を病んだり、挙句には自殺に
至るという悲劇すら生んだそうですから、「試験地獄」の元祖と言えるのかも
しれません。

そうでありながら、こうした「科挙制度」は、廃ることなくその後も継続された
のですから、中国の国民感性によほどフィットしていたということになるので
しょうか。

一応の終焉を迎えたのは「清」王朝(1616-1912年)の時代でした。
つまり、驚くべきことに(なにも無理して驚く必要もありませんが)、「科挙」
自体はなんと20世紀まで(598-1905年)およそ1300年にわたり続いていた
ことになります。

ところが、「中国」の影響を強く受けていたはずの日本でありながら、
意外なことに、この「科挙」制度自体には割合に冷淡?な態度で接し、
結局のところ、これを採用するには至りませんでした。
「科挙」よりも、もっとこの日本の風土に適した素敵な?方法を見出して
いたことがその理由です。

その選別方法とは、「家柄」というものであり、言葉を換えるなら「世襲制」
ということです。
要するに、限られた「家柄」に属した者だけが、高級官僚?になる資格を
備えた人間ということにしたわけです。 俗に言う、
~百姓の子は百姓、家老の子はカエル(違ったッ)、家老~
であり、この言葉はそのことを上手く言い表しています。

つまり、「家柄」で選ぶのですから、敢えてその上に「科挙」を実施する必要は
なかったということです。
しかし、中国の「科挙」にせよ日本の家柄」にせよ、確かに選別の方法は
異なるものの、いずれの場合も、ある種の格式をもって「選ばれし者」(選良/
エリート)ということですから、必然的にこんなルールが敷かれることに
なります。
~下々の者(選ばれなかった者)には御政道に口を挟む資格はないッ!~

日本の江戸時代も、長らくの間この通りの有様を呈していました。
もっとも、幕政改革の一環として、「目安箱」を設置し民意を知ろうとした
第八代将軍・徳川吉宗(1684-1751年)や、「黒船来航」という国難に直面し、
諸大名や広く市井からも意見を募った老中首座・阿部正弘(1819-1857-年)
などもいるにはいたのですが、これはむしろ例外的な存在で、あくまでも、
~市井の者には御政道に参加させない~ これを鉄則としていました。

そうはいうものの、エリート選びの方法としては、江戸時代の間およそ見向き
もされなかったこの「科挙」方式が、江戸幕府滅亡(1868年)の後に成った
大日本帝国の軍隊(陸軍/海軍)には、ひょっこり顔を出しているのです。
~遅れてやって来た「科挙」~とも、あるいは~「科挙」のゾンビ~※とも
言えるのかもしれません。 ※ゾンビ→生きている死体

士農工商52 海軍兵学校01






  士農工商(家柄方式) / 海軍兵学校(選抜試験方式)

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海軍の場合だと、いわゆる「ハンモックナンバー」(釣床番号)なる仕組みを、
この「遅れてやって来た科挙」と受け止めても、あながち見当違いでも
なさそうな印象です。 

そもそも「ハンモックナンバー」とは、兵員が使用するハンモック(釣寝床)に
書かれた番号を指していますが、ただ、俗称として用いる場合は、同時に、
~大日本帝国海軍における「海軍兵学校の卒業席次」、または
  「兵学校同期生間の先任順位」~
を意味していたからです。

要するに、ここでの成績の順位を表したもので、その順番に従って昇進・
出世をしていくというシステムですから、当然ですが、良い成績を収めた者の
順番に早く昇進・出世ができて、そうでない者は後回しにされるわけです。
ということは、この「ハンモックナンバー」は、いわば「プチ科挙」もどきの性格を
備えていたことになります。

また、海軍兵学校では「入学期」を大変に重要視しました。
期の数字が若いほど先輩であり、大きいほど後輩ということで、当然の如く
昇進・出世もその順番に沿った進められます。
こうした仕組みが盤石に構築されることによって、海軍全体はいささか
硬直した一種の年功序列型組織になりました。
このことは結果として、海軍が将官一人一人の能力を考慮したフレキシブル
な人事配置を行えなくなったことを意味しています。

しかし、平時ならともかく、戦時においてその指揮官を、年功やペーパー
テストの成績順で決めようとしたのは、いかにも拙かった。
戦場においての状況判断力や決断力など、前線指揮官としての適性は
年齢や机上のテストでは決して測れないものだからです。

ですから、いささかチグハグに感じられるこんな人事もありました。
昭和の大戦争「太平洋戦争」(1941-1945年)、その口火を切った
「真珠湾攻撃」の折に、空母を基幹とする機動部隊の艦隊司令長官に就いた
のは、畑違いの「水雷(海の地雷?)」の第一人者との評価を得ていた
N中将でした。
実は、その一期後輩には、母艦・航空機による戦術を自家薬籠のものに
していたバリバリの専門家・O中将がいたのですが、抜擢されるまでには
至りませんでした。
「年次が若い」ことがその理由でした。
 
それはともかく、人間の優劣を「家柄」で判定しようとした日本方式は、
江戸幕府滅亡の後に「四民平等」の理念が誕生したことをもって、また一方の
中国における「科挙制度」も、もう少し後の「清王朝」滅亡をもって、一応の
ところは姿を消したことになっています。

ただ、「完全消滅」とまでは言い切れません。
かなり早い時期(788年)に「科挙」制度を導入した朝鮮国、つまり現代なら
韓国と言うべきでしょうが、この現代韓国の、いわゆる「受験戦争」の激しさ
などは、かつての「科挙制度」の残り火に見えなくもないからです。
ひょっとしたら現代韓国の国民は、かつての「科挙」に対する憧憬を、
持ち続けているのかもしれません。

まあしかし、「科挙」にせよ「家柄」にせよ、はたまた「ハンモックナンバー」
にせよ、どの方法・制度を用いようと、その仕組み自体が人人間がひねり
出したある種の方便?みたいなものですから、所詮人間一人一人の優劣を
判定しようなんてことは、無理のあることに決まっています。

その点、宗教、つまり神様・仏様はさすがに太っ腹で、人間の優劣なんて
そんなケチくさいことは言いません。
例えば、キリスト教なら、
~超偉大な存在である神の下では人間は皆平等~としていますし、
日本の場合なら、例えば本願寺では、
~阿弥陀如来の前においては皆等しく凡夫~ということで、
~人間一人一人の優劣なんかありゃあせんし、仮に人間個々に違いが
  あったとしてもダ、それは優劣・貴賤の差ではなく、単に個性の範疇の
  収まるものに過ぎない~
としています。 

ということは、老若男女/長身痩躯/容姿端麗/博学多才、えぇ、まだ
あるぞ、無芸大食/八方美人/悪逆非道/人畜無害/有象無象/
和洋折衷/落石注意/・・・そのみんながみんな、十人十色・百人百様と
いうことに過ぎないのであって、つまりは人間一人一人についての優劣採点
ではないってことになりそうですねぇ。



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