日本史の「事始め」25 栄耀栄華から栄養超過へ

多分これはヨタ話の類に違いないと踏んだこともあって、あまり熱心には
耳を傾けることはなかったのですが、町内長老のお話はこうでした。
~かかりつけ医がワシにいうことにゃ、「アナタは糖尿病の二軍患者」だとさ~

なんにつけ病気と分かれば、その対処は避けて通れませんから、
~まあ、早めに分かってよかったじゃないですか。~
と筆者もついウッカリと応えてしまったのです。

後から考えれば「早め」という言葉がテキを覚醒させてしまったのかも
しれませんが、次にはこうきました。
~ところで、本邦初の「糖尿病患者」って誰だか知っているか?~

筆者ごとき尾張の田舎者がそんなもん知るはずがありません。
それに、第一どうすればそれを「最初」と特定できるのかも分かりません
から、その場の退散を心構えすると、
~ワシは知っているゾ。 そのかかりつけ医が教えてくれたのだ。~
いやぁ、面倒くさい展開になってしまった。


 fujiwara_michinaga_kitte_01.jpg 第15回国際糖尿病会議/記念切手

町内長老の話は続きます。
~このことはちゃんと記録にも残っているらしいが、平安時代の藤原ナカミチ
 って貴族が「糖尿病」が死因の本邦初の人物ということだ~


さらには
~昔は、美味い物をたらふく食べて体を動かさない奴が糖尿病になるって
 言っていたものだが、そうするとワシもいっぱしのグルメということになる
 のかもしれんなあ~

こりゃあ、ますます話が長くなりそうだ。
そう思ったところで長老のスマホが鳴り、あぁ助かった。 流れ解散です。

しかし町内長老のこの話は、実はその後も少し気にかかっていました。
~時代も人の名も記録も分かっているということなら、いつも通りのただの
 ヨタ話ではないかもしれない・・・かもしれない~
というところです。
それで、それなりの手間ヒマを費やしてネット徘徊をすることにしてみました。

まずは『糖尿病』についても最低限の知識は必要ですから、そこから始めると、
○膵臓の細胞から分泌されるインスリンというホルモンの分泌量が不足したり、
 その働きが低下することによって、慢性的に血液中のブドウ糖の量が多く
 なる(高血糖)病気


分かったような分からないような説明だと思いながら、前へ進んでいくと、
○糖尿病はほとんど自覚症状がないのが大きな特徴。
 そのため、気がついたときには重症になっていることも少なくない。


なんだ、気付くことが難しいのかと思いきや、続けて、
~こんな症状を自覚することもある~とされています。
しかし、「体調の変化に気づく」のであれば、普通はそれを「自覚症状」と
呼ぶのではないのかえ。

しかし、こんなところでツッコミを入れていても埒が明きませんから、
列記された症状に目をやります。 すると、
○倦怠感/口が渇く/多量に水を飲みたくなる/尿量が増える/
 強い空腹感を覚える/食事量が増える/体重が増加あるいは減少する/


それだけに留まらず、さらには、
○十分な血糖の管理をしないでいたりすると、血管が障害を受けてもろく
 なり、さまざまな合併症が引き起こされる。


ゲッ、軽い口調でメッチャ怖いことを言ってくれるじゃん。
で、次にはその「合併症」は何かと探ってみると、
○視力の低下や失明を招くこともある網膜症/全身の血管の動脈硬化/
 たんぱく尿やむくみが現れる腎症/しびれや感覚が麻痺する神経症/
 心筋梗塞・脳梗塞をおこす可能性も高くなる/


メッチャ大層な病気には違いなさそうですが、反面こうした説明からすれば、
誰でも一定の年齢になればその病に近づくものという理解になりそうです。
実際、「40歳以上の4人に1人が糖尿病」という文言にもぶつかりました。

「4人に1人」ということなら、つまりは40歳以上の25%の人が糖尿病を
抱えていることになりますから、ちょっとばかり凄い数字であることを
イヤでも思い知らされます。

しかし、こちらの疑問が解消できません。
~町内長老のいうように、この病気の本邦第一号患者が「藤原ナカミチ」だと
 どうして特定できるのか?
 はたまた、その「藤原ナカミチ」なる平安貴族は、一体何者なのか?~


この後のネット徘徊の往ったり来たりの末にようやく分かったことですが、
その人物の正しい名は「藤原道長」(966-1028年)だったのです。
えぇ、自分が存命中に自分の長女・彰子を第66代・一条天皇、
次女・妍子を第67代・三条天皇、三女・威子を第68代・御一条天皇、
のそれぞれ皇后にして「一家立三后」と驚嘆された、えぇ、あの道長です。

それに、思い上がり感がハンパでないこの歌でも有名ですねぇ。
~この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることの なしと思へば~


 fujiwara_michinaga_nikki_01.jpg konoyooba_mochiduki_01.jpg
    藤原道長日記「御堂関白記」 / 望月

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さて、問題になっていた謎の人物はなんとか特定できました。
しかし、その道長が本邦初「糖尿病患者」であることの証拠は?
どうやら、間違いなく「日本初」ということではなく、史料で確認できると
いう条件下での「日本初」という定義になるようです。

その道長本人はよほどの筆マメだったようで、
~政務に忙殺されてはいたが、23年にわたって毎日日記をつけていた~
とされています。
三日坊主専門の筆者には到底マネのできない立派な「生活習慣」ですが、
その上に日記の自筆本は14巻にも及ぶとされています。

そこには、この頃つまり11世紀初頭の政治や世相が事細かく記されている
ばかりか、おそらくは本人の健康状態についても触れられていたということ
なのでしょう。
~道長はもともと頑健な体質ではなく、生涯にわたって幾度も大病を患って
 いる。 51歳ごろからは糖尿病を患うようになった。~


こんな様子を見せていたようで、説明はさらに続きます。
~栄華に満ちあふれた道長は美酒美食に明け暮れ、運動不足となり、さらには
 権力闘争でストレスも強かったためか、中年過ぎからはしばしば「口の渇き」
 を訴え、昼夜なく「水を欲しがり」、「脱力感」にも襲われていた。~

前に挙げた糖尿病の症状にバッチリ当てはまっています。

さらには、
~その後、白内障か糖尿病網膜症によるものか眼が見えにくくなったようだ。~
これで終わりかと思えば、とてもそんな生易しいものではなく、
~背中にお椀ほどの大きな腫れ物ができ寝込んだ。~
この「お椀大腫れ物」は糖尿病によって免疫力が低下し、それが要因となって、
ちょっとした傷から大層な化膿を引き起こしたようです。

そして、
~その腫れ物により敗血症を引き起こし、最後には多臓器不全で他界したと
 考えられる。~
 グェッ、知れば知るほどおっそろしい病気ですねぇ。

さて、その道長本人にとってはあまり嬉しくない栄誉かもしれませんが、
「第15回国際糖尿病会議」の記念切手(平成6年)には、六角形の
インスリン結晶と共に道長の肖像が描かれています。

なんでインスリン結晶が描かれているのか、ってか?
大切なことですから繰り返しますと、こういうことだからです。
~膵臓の細胞から分泌されるインスリンというホルモンの分泌量や作用が
 低下すると、血糖値が高くなって糖尿病になる。~


ちなみに、ヨーロッパには紀元前1500年前に書かれた多尿の治療法や、
2000年前にはその病像を詳細に表わした著書が現存するとのことですから
日本の糖尿病は歴史的にはずいぶん後塵を拝したことになるそうです。

考えてみれば、当たり前のことなのかもしれません。
おそらくは、それまでの日本人には美食飽食癖はなかったでしょうからね。
つまり、多少デフォルメした言い方をすれば、日本の美食飽食は道長に始まり、
現代日本人はみんなが揃って藤原道長クラスの美食飽食家になっていると
言えるのかもしれません。

ですから、町内の長老に限らずミナサンも、糖尿病を予防するために
極力運動をするように心掛けましょうに。 
それに、話の発端になった町内長老には強目にひと言返しておく必要が
ありそうです。
~話題になった人物の名はナカミチではなく道長でしたよッ。~




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