日本史の「付録」15 カタカナ語はとめどなく

たまたま手元にあった雑誌「通販生活」(2021春号)を手に取ってみたところ、
その中に「カタカナ語辞典」(第一版<2021版>)とタイトルされたページが
設けられていました。 そして、その表紙部分にはこんな文言が。
~Go To なんて 動詞にまで 英語が使われる時代・・・そのうち 日本語は
 接続詞や助詞だけに?~


かねてから筆者も同様な感想を抱いていましたから、ついでに中身もチラ見。
すると、最初のページには「刊行のことば」として、こんな一節が。
~“あること”を言いたいのだけれど、それにふさわしい日本語がみつからない
 ときにやむなく借りてくる外国語― ― ―カタカナ語の歴史はそこから
 始まったことを、私たちは肝に銘じるべきだと思います。
 つまり、使う時はあくまでも借りる感覚で使う。~


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通販生活 2021春号 / 綴じ込み付録?カタカナ語辞典

なるほど、その通りだろうなぁ。 すると続いて、
~この借りる感覚を失ってしまうと、カタカナ語はとめどなく増殖していき、
 増殖した分だけ日本語が消えていってしまう。 なんとMOTTAINAI。~

カタカナ語がとめどなく増殖、という表現は筆者の実感にピッタリです。

しかし、こうしたカタカナ語の増殖については、それまでにはなかった全く
新しい文物・概念・技術などが日々刻々と生み出され続けている現代に
おいては、一面では仕方のないことと言えるのかもしれません。

しかし、そうした思いを、幕府から政府へ、鎖国から開国への大転換を実現
させた時代までひょいと飛ばして眺めてみると、この頃も間違いなく社会全体
が激変に巻き込まれた時期だったことに気が付きます。
つまり、現代と同様に、あるいはそれ以上にそれこそまったく新しい文物・
概念・技術などに溢れかえっていた時代だったということです。

では、その時も「カタカナ語がとめどなく増殖」したのかといえば、必ずしも
そうではありませんでした。
それに対応するために、新しい日本語を創作するという努力が払われたから
です。

~(この時期、すなわち)19世紀後半には西洋の文物・概念を漢語によって
 翻訳した和製漢語(新漢語)が多く作られた~

こうした説明に深入りすると、なにやら複雑な展開になってしまいそうですが、
「カタカナ語」との違いを比べてみる意味で少し探ってみることにしました。

のっけに、~和製漢語(新漢語)は2種に分けられる~とあります。 
それに続いて、
~(しの2種の)ひとつは、科学、哲学、郵便、野球など、新しく漢字を組み
 合わせて作った、文字通り新しい語である~


ほんじゃあ、もう一つの方は?
少し気負って突っ込んでみると、こちらはこんな説明です。
~自由、観念、福祉、革命など、古くからある漢語に新しい意味を与えて
 転用・再生した語である~


ただし、こちらは狭義の和製漢語には含まないこともある、とされていますが、
いずれにせよ、そうした「和製漢語」を創り出す苦労はそれこそ半端では
なかったと思われます。

そこで、ここではそうした言葉のうちの科学、哲学を取り上げて、
その「知恵の集約ぶり」を眺めることにしてみました。
~「科学」という言葉は、明治初期に「science」(サイエンス)に対して日本で
 つくられた造語です。~


現在では、当たり前の日本語になっていますから、これを造語した際の
先人たちの苦労が見えにくくなっているのは事実でしょう。
そうこうしていると、ひょっこりこんな一節に出くわしました。
~「科学」というのは、文字どおり「科」の「学」の意味で、例えば、物理学、
 化学、生物学などの「科」を意味する。~


別の方向から言えば、
~つまり、個別の「科」に専門分化した「学」問を意味する~
では、専門分化させない学問はなんと呼んだらいいの?
こちらも、ちゃんと「和製漢語」として造語されています。

~個別の「科学」に対して、個別ではない「百科」の学問を「哲学」と呼ぶ~

これが定説になっているのかどうかはよく知りませんが、少なくとも現代の
「カタカナ語」創作に比べたら、この時代の「和製漢語」にはそれなりに
細やかな配慮があったことは間違いない印象です。


 yuubinbako_01.jpg maejima_hisoka_1en_01.jpg
 (初期の)郵便箱 / 前島密(1円切手)
 
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ただし、そこまでの気配りをして造語することと、その概念を多くの人が理解
できたこととはまったくの別問題です。 
例えば「郵便」という言葉についても、その由来にはこんな出来事もあったと
されています。

明治時代に入って、それまでの飛脚が「郵便」に移行していくのですが、
この新しい制度の創設に尽力していた前島密(ひそか/1835-1919年)は、
さて「mail」をどのように訳すべきか考えました。

現在でも1円切手の肖像として有名であり、また「日本近代郵便の父」
呼ばれる人物です。
~時代も変わったのに、従来通りの飛脚のままではいまいちパッとしないゾ。
 そんなことなら敢えて誰もが読めない文字を使う方が関心を呼ぶのでは?~


そこで、庶民にとって非常に馴染みの薄い「郵便」という言葉にしたようです。
「郵」の字には~命令や文書などの伝達を取り次ぐ宿場~ほどの意味があり、
また「便」は文字通り~便り/しらせ~を表しています
ちなみに、その「郵便」に欠かせない「切手」「葉書」という名称も、この前島が
定めたようです。

さて、ここから先のお話は、これがホントにあった出来事なのか、あるいは
一種の都市伝説めいたヨタ話なのかは、筆者自身よく承知していないことを
前もってお断りしておきます。

前島密が造語した言葉「郵便」の読み方も概念も、少なくとも当座は
多くの人にその理解が及びませんでした。
敢えて馴染みの薄い言葉にしたのですから無理もありません。
~なんじゃあ、これって、どう読むんじゃ? しかも、なんのこっちゃ?~

ポストが設置されるようになっても、庶民は「郵便箱」という文字が読めず
無理やりのこと「タレベンバコ(垂れ便箱)」と読み、果てには本当に「郵便箱」に
向かって小便を垂れる人もいたそうです。 (ホントの話だろうか?)

割合キメ細やかな「和製漢語」にも、こうしたエピソードが語られるのですから、
これが「カタカナ語」ともなると、この手のお話はそれこそ枚挙に暇が
ありません。
2016年頃でしたが、「東京大改革」と銘打って、小池都知事が3つの柱を掲げた
ことがありました。 

その3つの柱は、いずれも「カタカナ語」で、こう表現されていました。
(1)セーフ シティ (2)ダイバーシティ (3)スマート シティ
この頃の本ブログでも取り上げたことがありますが、これを目にし耳にした
時の筆者はちょっとばかりビックリ!

~(1)の「安全な」と(3)の「賢い」はともかくも、(2)の「ダイバーの街」とは
 いかにも場違いだ・・・だって、潜水士やスキューバダイバー向きの
 街づくりが「大改革」に直結するとは到底思えないッ!~


ところがこれ、筆者の無知ぶりを思う存分にさらけ出した誤解だったの
ですねぇ。
問題の「ダイバーシティ」とは、「diver city」ではなく、「多様性」ほどの意味を
持つ単語「diversity」のことだと、後になって知ったのです。 
要するに、~老若男女問わず誰もが生き生きと暮らせる~
これを、とっても分かりやすい?「カタカナ語」で主張していたわけです。

コトのついでに「カタカナ語」について、友人との間でこんなやり取りが
あったことも白状しておきましょう。
念のためですが、昔も昔の大昔の出来事なのですが。

筆者~「シネコン」っていったいなんのこっちゃ?~
友人~そんなもん、昔で言う映画館のことに決まっとるがや~
その友人なる人物は筋金入りの尾張民族ですから尾張言葉を常用しています。 
すみませんねぇ。 問答は続きます。

筆者~すると、「シネマ」の洒落た表現が「シネコン」なのか?~
友人~違う! 「シネコン」は「シネマコンプレックス」を略した言い方ッ~
筆者~なんだとぅ、そんならその「映画劣等感」って、一体何のこっちゃ?~
友人~純粋な日本語になり切れず、カタカナ語になってしまったことに
   幾分の劣等感を感じた、ということかもしれんなぁ、きっとなら~

友人の説明がどうにも腑に落ちないので後で調べ直してみると、明々白々の
大間違いでした。
その「カタカナ語」の「シネコン」こと、「シネマコンプレックス」とは、
~大型商業施設で複数の映画が上映できる複合型の映画館~
(※ちなみに、今回案内の「カタカナ語辞典」に掲載されている内容です)

こうした意味のないドタバタ劇を避ける意味からも「カタカナ語辞典」は
今後ますます必要とされるのかもしれませんねぇ、きっとなら。




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