日本史の「ツッパリ」19 中華思想に外国は無い

中国史における「戦国時代」は、群雄割拠の勝ち残り戦の中で最終的に秦が
斉を滅ぼして中原を統一したことで終焉をみたとするのが一般的なようです。
えぇ、年代の具体的な数字を挙げるなら、そりゃあもうメッチャ昔の紀元前
221年ということになります。

それまで群雄割拠だった勢力地図を一色で塗り潰すことができるようになった
わけですから、偉業も偉業、大偉業といっていい功績です。
それで、それまではその親玉の身分を表していた国王との呼び方とは別に、
その上に立つ者を意味する新たな称号・皇帝を誕生させました。
おそらくは、この偉業にふさわしいと思われる称号を模索した挙句のこと
だったのでしょう。

それで、最終的な覇者となった秦王・(前259-前210年)は、史上初の皇帝
として、文字通り「始皇帝」と名乗りました。
そのあおりを受けた格好になりますが、それまで国のトップを意味していた
称号「国王」は、これ以後、一エリアの族長クラスを意味するようになり、
いわば一段格落ちしたランク付けとなったのです。


 shikoutei_01.jpg 秦・始皇帝

えぇ、これよりはずっと新しい出来事になりますが、倭国の女王・卑弥呼
(生年不明-248年?)も当時の中国・魏(220-265年)の皇帝・曹叡から
「親魏倭王」との称号と、それを刻んだ金印を頂戴し舞い上がっていたことも
ありました。

中国皇帝が卑弥呼を倭の国王として認めたということは、早い話が親分子分の
盃を交わしたというか、つまりは双方が相手の立場を認めあったことになる
わけですから、卑弥呼はメッチャ大きな実績を作ったことになります。
それを思えば、舞い上がってしまうのも無理もないのかもしれません。

しかしこうした歴史的な意味合いを尊重して言葉を選ぶなら、「朝鮮国王」と
いう言い方はセーフだとしても、例えば「スウェーデン国王」などの表現は
明らかに間違いということになります。
何故なら、スウェーデンの王様は中国皇帝から授かった地位でもなければ、
ましてや、その親分子分の関係にあるわけでもないからです。

しかし、ともかくこの「皇帝」という発想は漢民族の自尊心をメッチャ強力に
くすぐり、中華思想をさらに強めていく要因にもなったことは間違いない
でしょう。
でも、何ですか、その「中華思想」って?

始皇帝どころか、それよりずっと前の時代の思想家・孔子(前552?-前479年)
が活躍していた頃にはすでに文献でも説かれていたようですから、漢民族の
アイデンティティとも言える思想ということになりそうですが、一応のところ、
こんな説明になっています。

~中華思想とは中華の君主こそが天下(世界) の中心であり、その文化・思想が
 神聖なものであると自負する考え方で、漢民族が古くから持った
 自民族中心主義の思想~


自らを中国(世界の中心)と美称するのもその中華思想の一つです。
要するに、自らが治める範囲だけが世界で唯一の国(中華)であり、その圏外に
ある地域については、それは外国ではなく文化不毛の辺境に過ぎないとする
考え方です。

またそこに棲む者がいれば、それは民族と呼べるだけのいっぱしの存在では
なく、文明文化を知らない単に蛮族(夷狄)に過ぎない、言っているわけです。
傲慢と言えばまことに傲慢な考え方で、自らを華、それ以外は夷としている
ことから「華夷思想」ともいうようで、主義という言葉を使うならズバリ
「中国中心主義」ということになります。
というか、~中国以外にもなんにもありゃあせん~という考え方です。

その思想の強烈さは、自分たち「華」以外の者、つまり「夷」を表す言葉の
豊富さにも表れています。
ご丁寧なことに、自分たちの東西南北の各地域に棲む者たち対して、それぞれ
専用の差別言葉を揃えているのです。

中華の東方面→東夷/日本・朝鮮など
中華の西方面→西戎/チベット・中央アジアなど
中華の南方面→南蛮/東南アジア・インドなど
中華の北方面→北狄/満州・モンゴルなど

夷も戎も蛮も狄も全部が全部、文明を知らない未開人、野蛮人という意味です
から、あきれてしまうほどに念入りな差別だと言わざるを得ません。


 cyuuka_shisou_01.jpg 中華思想

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なにせ、自分たちが世界の中心であり、それ以外は未開地に過ぎず、文明と
いうものを知る民族も存在しないという考え方ですから、その「未開地域」、
つまり自分たち以外の「外国」に目をやるなんてこともありません。
「中華思想」に「外国」なんて概念はハナから存在していないのですから、
無理もないことです。

ところが、歴史的にはそうした「思想」だけではいかんともしようのない
現実に襲われたことも何度かあるのです。
たとえば、いわゆる「元寇」(1274年/1281年)で日本とも強い関りを演じた
「元王朝」(1271-1368年)の存在もそのひとつであり、これは漢民族ではなく、
中華思想ではばっちり蛮族「北狄」にあたる「モンゴル民族」が中原において
うちたてた国家でした。

さらには、20世紀まで続いた「清王朝」(1616-1912年)も、漢民族以外の
蛮族である満州人による国家でした。
こうした蛮族の配下に置かれた歴史を屈辱?と捉えているのか、21世紀の
中国・中華人民共和国はかつての中華思想に取り憑かれたような様子を
見せています。

莫大な予算を組んで軍事力を拡大するばかりではありません。
自国以外の海域にまで進出し、あちらこちらの島々に戦略拠点を設け続ける
行動もそうなら、台湾・香港に対する政治介入、さらにはチベット族や
ウイグル族など、「中華」とは異質な文化を持つ者と判断した少数民族に
対する洗脳戦略や人権弾圧などもその通りです。

筆者のような平均的日本人で、かつまた人畜無害な輩にとっては、とてもじゃ
ないが正気の沙汰とは思えないことを平気でやってのけているのです。
そして、そこに多少なりとも後ろめたさが感じられるような態度が垣間
見られればまだしも、話は全く逆で、早い話が居直る、あるいは場合に
よっては逆ギレすることもしばしばです。 
なんでまた、そんな大それた行動がとれるのか?

話は簡単で、かつての中華思想を踏襲しているということなのでしょう。
しかし、「かつて」ということは、多少メルヘンチックな言葉使いをすれば、
御伽噺にある「むかしむかし、ある所に・・・」ということに過ぎません。
露骨な言い方をするなら、「中華思想」は世界のトレンドからしても、もはや
時代遅れ以外の何ものでもなく、それこそ「前世紀の遺物」に過ぎないのです。

しかし、それを中国が認めることはありません。
なんでやねん? そんなもん決まっているじゃあありませんか。
「中華思想」に身を置けば、国として存在するのは唯一中国だけで、その他は
すべて文明文化の不毛な周辺地域に過ぎないからです。

21世紀に入って、多少定義の範囲が変わっただけといっていいのでしょう。
東夷/日本・朝鮮など      →太平洋地域まで拡大
西戎/チベット・中央アジアなど →中東地域まで拡大
南蛮/東南アジア・インドなど  →オーストラリア地域まで拡大
北狄/満州・モンゴルなど    →ロシア地域まで拡大

そしてさらに問題を厄介なものにしているのは、その中華人民共和国が
中国共産党による政権であることです。
御存知の通り、この政党のウリの一つに「自己無謬性」という思想・信念が
あります。

要するに、
~自分たち(中国共産党)の理論や判断には絶対に間違いはない~
という思想・信念です。
これに対し、民主主義では、
~自分たちの理論や判断には間違いもあり得るのだから多数意見をもって
 是としよう~

とする考え方を採用しているのですから、根本的に違います。

つまり、今21世紀の中華人民共和国は、旧来(紀元前から)の「中華思想」と
いう信仰を復活させたうえに、前20世紀になって手に入れた「自己無謬性」と
いう信仰に対し自己陶酔の状況にあることになりそうです。

そして、中国のこの「中華思想」も、またさらには「自己無謬性」も、
日本民族が古来から大事にしてきた「和の精神」とは全く異質な信念で
あるため、つまりは、双方が相容れることはありません。

「相容れない」なんて一面不幸なことのようにも感じられますが、中華思想
や自己無謬性に酔う日本民族の姿を想像するなら、そうならないことの方が、
遥かに幸福であろうと感じてしまう、今日この頃の筆者です。




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