日本史の「微妙」18 五つ色と五つ輪の四方山話

漢字ばかりが配列されたこの文章を読めますか?
~初春令月 気淑風和 梅披鏡前粉 蘭薫珮後之香~
実はこれ万葉集「梅花の歌三十二首序」にある文章で、その読み下しは
こうなるようです。

~初春の令月(れいげつ)にして、気淑(よ)く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披(ひら)き、
 蘭は珮後(はいご)の香を薫す~

普段見聞きしている文章に比べたら、エラく固い表現になっていますが、
これが「平成」の後の元号「令和」の出典となったことで、その時期には
少々の話題にもなりました。


 manyousyuu_01.jpg 万葉集

ちなみに、その「万葉集」とは、
~奈良時代末期に成立したとみられる日本に現存する最古の和歌集~
このように説明されています。
では同じく万葉集(巻五)にあるこちらの漢字配列だったら読めそうですか? 
~銀母 金母 玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米弥母~

新聞記事にある現代文章を読むのだってイイコロカゲン苦労が伴うのですから、
漢字オンリーのこんな文章が読めるはずもありません。
しかし、多くの人にとってはまったく未知の文章というわけでもなく、
読み下せばこうなります。
~しろかねも くがねもたまも なにせむに まされるたから こにしかめやも~

ひょっとしたら、アナタも一度くらい耳にしたことがあるかもしれません。
漢字と仮名の両方を使ったもう少し分かりやすい表記に直すと、こうなります。
~銀も 金も 玉も 何せむに 優れる宝 子に及かめやも~

意味合いは、
~銀も金も宝石も、宝としてそれらより優れている子ども(という宝)に、
 どうして及ぶだろうか。 いや及ぶまい。~


作者は奈良時代の歌人・山上憶良(やまのうえ の おくら/660?-733年?)で、
ちょうど第40代・天武天皇(在位:673-686年)の頃に青年期を迎えた人物です。
ちょっと付記しておくなら、この山上憶良は官人という立場にありながら、
重税に喘ぐ農民や防人に取られる夫を見守る妻など、家族への愛情、農民の
貧しさなど、社会的な優しさや弱者を鋭く観察した歌を多数詠んだ人物でした。
ですから、当時としては異色の社会派歌人だったといえるかもしれません。

さてこうした展開になると、この次の話題はその人物「山上憶良」に移って
いくものと想像されることでしょう。
ところがドッコイで、続く話題は歌中にある文言「しろかね」や「くがね」に
移っていくのです。 えぇ、とんだ肩透かしで申し訳ありませんねぇ。

それはともかく、ここに挙げられた「しろかね」も「くがね」も、
~昔の日本での金属の呼び名(俗称)~に他なりません。
つまり、昔の日本では銀を「ぎん」ではなく「しろかね」、金は「きん」では
なく「くがね」と表現していたわけです。
もっとも現在では、金は「こがね」との言い方のほうが多いかもしれません。

その後の時代になって日本民族が少しづつ漢字の扱いに慣れてくると、
表記の方も本来の日本語にフィットする文字を充てるようになりました。
たとえば「しろかね」には「白金」、「く(こ)がね」には「黄金」をといった具合です。
さて、そこでひょいと気が付くのですが、憶良のこの歌の場合には「銀」と
「金」は登場していますが、意外にも「銅」は登場していません。

ですが、本年開催予定?のオリンピックでも競技成績上位者には
「金/銀/銅メダル」を授与することで顕彰するのですから、できれば
この機会に「銅」を意味する本来の日本語も知ってみたい。

ということでその辺りを探してみると、先の銀や金の他にも金属を表す
日本語もちゃんとあったことが分かりました。
その金属の種類はさすがに現代ほどには多くはありませんが、ついでのこと
ですから、当時のそれらの<金属名/読み方/漢字>を一覧にしてみましょう。
○銀/しろがね/白金 ○金/こがね /黄金 ○銅/あかがね/赤金
○鉄/くろがね/黒金 ○鉛/あおがね/青金


 medal_kingindou_01.jpg olympic_mark_01.jpg
 メダル(金・銀・銅) / 五輪マーク(シンボル) 

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この五つの金属の名称は、それぞれになかなかに表情豊かな表現になっていて、
ちょっとばかり感心してしまいます。
では、日本語名称を持つ金属はこの五種類以外になかったのか?
いいえ、じつは結構ドッチャリあったようです。

先の例は「色+金」の名称パターンなっていましたが、筆者はそれとは別に
「色+銅」のパターンもあることに気が付いたのです。 
ただし、憶良の時代にはこうした名称はまだなかったということかも
しれませんが、念のためにこちらも少し挙げておくとこんな感じです。

○黄銅(おうどう) /銅と亜鉛の合金
○赤銅 (しゃくどう) /銅と金の合金
○青銅(せいどう) /銅と錫の合金→ブロンズともいう
○白銅(はくどう) /銅とニッケルの合金→白(洋銀)とも呼ばれ、
           銀の代用品として使われてきた

ここで話はまたまた二転三転。 
落ち着かないお話で、ホント申し訳ありませんねぇ。
「色+銅」ということから、ひょっこり競技で第三位者に「銅メタル」を授与
するオリンピック・パラリンピック大会のことを連想してしまったのです。

紙面の都合もあるので、パラリンピック大会のシンボルマークについては別の
機会に譲ろうと思いますが、さて、アナタはオリンピックのいわゆる
「五輪マーク」のデザインの意図、あるいは五つの輪の色の意味合いを正しく
答えることができますか?
えぇ、文字通り五つの輪が連なった例のアレです。

実は筆者もその一味でしたが、誤解している人も意外に少なくないようです。
まず「五輪マーク」の意味合いは複層構造、つまり同時にいくつかの意味を
持たせているとのことです。 そんなことはトント知りませんでしたでぇ。

その輪は左から順に青/黄/黒/緑/赤/で構成されていますが、その五輪は
同時並行で以下の三つの意味合いを表現しているそうです。
1>世界の五大陸を意味する。
  ヨーロッパ/南北アメリカ/アフリカ/アジア/オセアニア/の五大陸。
  ただしIOCによれば、どの大陸がどの色という指定はことはないとのこと。

2>五つの自然現象を意味する
  青=水/黄=砂/黒=土/緑=木/赤=火/を意味する。
3>スポーツの五大鉄則を意味する
  青=水分/黄=技術/黒=体力/緑=栄養/赤=情熱/を意味している。

さらには、その五つの輪の繋がり方は真横一直線ではなく、WORLD(世界)の
頭文字であるWの形になるよう上に3つ下に2つという配置にしているとの
ことです。
なるほど、じっくり確認をしてみれば確かにその説明に沿ったデザインに
っています。

しかし、多層構造とされる意味合いの点では、筆者なぞは「五つの自然現象」や
「五大鉄則」どころか、最初の「五大陸」の解釈の段で早々に躓いていたのです。
何故なら「五大陸」に対する筆者の理解は、ユーラシア/アフリカ/オセアニア
/北アメリカ/南アメリカの各大陸であり、上の五大陸の定義?とは違った
ものだったからです。

正直言えば、「ヨーロッパ大陸」という感覚にはイマイチ違和感を覚えるのです。
だって、世界地図を素直な心で眺めれば、ヨーロッパだけの大陸というよりは、
どう見ても「ヨーロッパ+アジア」でひと続きの大陸、要するに
「ユーラシア大陸」ですものねぇ。

まあ、ここらあたりのことは国際オリンピック委員会 (IOC) を設立した
「ピエール・ド・クーベルタン男爵」(と呼ばれている男性/1863-1937年)が
フランス人であること、つまりヨーロッパ出身者であることに幾分の忖度が
働いた結果なのかもしれません。
ちなみに、五輪の「オリンピックマーク」をデザインしたのも
この「クーベルタン男爵」だとされているようです。

というわけで、今回は万葉集からの元号・令和や山上憶良に始まり、それが
金属の和名に転化し、さらには五輪・オリンピックへと繋がり、挙句には
そこに世界地図まで関与するという、いわば時空を超越した波乱万丈チック
な展開になってしまいました。

それにしても、コロナ禍のオリンピック・パラリンピックって、いったい
どんな様子を呈するのでしょう。 
それよりなにより、聖火リレーは始まったものの、大会本体がホントに開催
されるかどうかについてもイマイチ先が読めない雰囲気がありますねぇ。




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