日本史の「付録」14 天照大神と野球用語

新春を迎え初詣気分にもなりましたが、密を避けなければならない昨今で
あることをひょっこり思い出して、その瞬間にすっかり改心した次第です。
そこで、参拝代わりと言っては何ですが、そういった神様系のお話に探して
みようと思い立ちました。
しかし、考えてみればこの日本にはそれこそ「八百万神」がおられますから、
その取っ掛かりを掴むことさえチョックラチョイのことではありません。

で、貧乏神とか疫病神みたいな幾分マイナス・イメージの神様よりは、
やっぱり、それなりに名前の売れた神様の方が話題も豊富であろうという
ことで、今回は天照大神サマに登場いただくことにしました。


 amaterasu_ookami_02.jpg 天照大神
 
その天照大神っていったい何者よ? ざっとこんな説明になっています。
~(天照大神とは)日本神話で、高天原(たかまがはら)の主神。
 伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の娘。 
 太陽神であり、また皇室の祖神として伊勢神宮の内宮に祭られている~


そうか、父親がイザナギ(伊弉諾尊)なのか。 だったら、母親は誰だろう? 
お話がこうなるのは自然です。
そこで、天照大神の母親探しをしてみると、こんな説明に。
~伊弉諾(いざなぎ)・伊弉冉(いざなみ)二神の三子の中、第一子とされ・・・~

そうか、そういうことなら、御母上はイザナミ(伊弉冉)なのか。 
しかしちょっと待て。 こんな説明も併記されているゾ。
~またイザナギの禊(みそぎ)のとき、左の目から生まれたとも伝える~
こうなると、天照大神のホントの産みの親がイザナギだったのか、それとも
左目だったのか、この点が気になります。

そこで身辺調査に及ぶと、「古事記」ではこんな展開になっています。
~イザナギは死んだ妻・イザナミを訪ねて黄泉の国(死者の世界)へ
 足を踏み入れた~


ちなみに、このイザナギトとイザナミは兄妹であり夫婦でもある、という
関係になるそうです。 
ちょっとアブナイ気もしますが、しかし神話世界のお話ですから、まぁ
セーフということにしておきましょう。

ところが、イザナギがその黄泉の国で目撃したイザナミは、ウジも湧き
崩れもした、変わり果てた姿をしていたのです。
ビックリ仰天、慌てて黄泉の国からの脱出を図るイザナギを、イザナミは
ヒツコク追ってきます。
凄まじい己の姿を見られてしまったからには逃がしてなるものか、と言った
ところでしょうか。

ホウホウの体で、イザナギはなんとかこの世にまで生還しました。
そして、早速水に浸かって黄泉の国の穢れを洗い流します。 
この行為がいわゆる「禊(みそぎ)」で、これを行うことによって黄泉の国で
浴びた死の穢れを落とし、元の清浄な状態にも戻そうとしたわけです。

その禊の際に、こんな出来事が報告されています。
~(イザナギが)黄泉の穢れを洗い流した際、左目を洗ったときに天照大神が、
 右目からは月読命(つくよみのみこと)が、鼻からは建速須佐男命
(たけはやすさのおのみこと)が生まれた~

この三柱を三貴子(みはしらのうずのみこ)と呼ぶそうです。

そういうことなら、天照大神はもちろん、その「きょうだい」関係にある
三柱のどなたも母親から生まれたのではなく、イザナギから生まれたことに
なります。
しかし、いくらイザナギの身体から生まれたとしても、男神・イザナギを
「母親」と呼ぶのはさすがにヘンです。
ですから、まあ「母なし子」もどきの見方をした方が無難なのかもしれません。

それはともかく、この三神の中で一番格上なのは、皇祖神に祭り上げられて
いることからも分かる通り、左目から生まれた天照大神なのです。
なんで、そうなるの? 
~日本では飛鳥以来、現在に至るまで「左上位」が連綿と受け継がれ、
 礼法の基本として定着している~
からです。

 sadaijin_udaijin_02.jpg baseball_position_01.jpg 
 左大臣・右大臣 / (野球)左翼手・右翼手

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というところまでが落語で言うならマクラに当たる部分で、本題はここからです
から、今回は長いマクラに短い本題という構成になりそうです。
悪しからず。

それはさておき、そうした昔からの礼法基準からすれば、「左大臣/右大臣」を
比べるなら、当然に左大臣の方が格上ということになります。
ただし、どっちから見てどっちが左でどっちが右なの? これが問題です。

こうした場合、まあ大抵は当事者本人にとっての左右を優先した言い方に
なっているようで、たとえば、こんな具合です。
~左大臣と右大臣の並び順は、天皇の左側に格上の左大臣、右側に格下の
 右大臣が立った~

つまり、正面から見ると右が上位となって、左右が逆の表現になるわけです。

そればかりか、こんなご丁寧な補足説明もありました。
~国会議事堂も、真ん中の中央塔から見て左側に、貴族院の流れをくむ
 参議院を配置~

つまり、1947年の日本国憲法施行により廃止されるまでは、二院のうちでは
貴族院の方が衆議院より格上であることを示す配置にされていたわけです。

さらには、京都御所・紫宸殿前にある「左近の桜・右近の橘」もその通りで、
その左右は、相対した見学者に取っての左右ではなく、あくまでも紫宸殿正面
の階段、つまり御所の住人・天皇から見ての「左・右」ということになって
いるとのことです。

これに留まるものではありません。
さらには、舞台用語である「上手・下手」(かみて・しもて)もその通りで、
こうした「左上位」の感覚に基づいて、つまり、舞台の左側(客席から見れば
右側)を「上手」、その反対の舞台の右側を「下手」と呼んでいます。

ではなんで、左が格上と考えたのでしょうか?
この疑問にも、ちゃんと答えは用意されていました。
貴人のお住まいの場合、庭は大抵南側に設けますが、その庭を眺めると
どうなるか? 逆立ちして眺めれば別ですが、普通はこうなります。
~日が昇る方が「東(左)」/日が沈む方が「西(右)」~

日が沈む方より日が昇る方が格上という意識です。
そう言えば、その昔聖徳太子(574-622年)が隋(中国)皇帝・煬帝
(569-618年)に送った国書に中に、こんな文言がありましたっけ。
~日出ずる処(ところ)の天子、書を日没する処の天子に致す。恙(つつが)なきや~

日出ずるとか、日没するとかの表現は、
~我が日本(日出ずる処)は、少なくともアンタの中国(日没する処)より
 格下ということにはならないゾ~
 
こんな気概を滲ませていたことになりそうです。

ところが、民族が異なれば、この「左右問題」もてんで違った定義になる
ことも少なくありません。
分かりやすい例を探すなら、野球に関する用語がその通りで、例えば外野
守備位置の名称は「レフト(左翼手)/ライト(右翼手)」となっています。 
どちらも、「日本の礼法の基準」に沿った、つまり外野守備選手当人に
とっての方向ではなく、それとは逆の、ホームベースから相対して眺めた
方向の名が付いています

もし、このゲーム・野球が外国ではなく、我が日本で生まれていたとしたら、
左大臣・右大臣、あるいは左近の桜・右近の橘のような伝統的な表現と同様に、
おそらくは守備に就いたプレーヤーを基準として、その左右が論じられたこと
でしょう。

えぇ、守備選手の目線で眺めるた方向付けになるでしょうから、つまりは
左翼手・右翼手の名称が現在法とは入れ替わっていたと思われます。
だって、真ん中の中堅手の左に「右翼手」がいて、右に「左翼手」がいる
現行の守備名称は、絶対にヘンだと思いませんか?

そんなもん、(多分?)アメリカで誕生したスポーツだから、日本規格と
合わないのは当然だとする向きもあるようです。 
しかし、それでもなおかつヘンなのだゾ。
なぜなら、左右の打席(バッターボックス)の名称を思い出してください。

えぇですか、「左バッターボックス」と呼ばれる位置は、実は右翼手側に設定
されているのです。
ということは、当然「右バッターボックス」は、逆に左翼手側に配置されて
いるわけです。
そして、この左右は守備選手から見た左右に合致していますから、ここの
名称だけはいわば日本の伝統的な左右法則を遵守していることになります。

という具合で、年の初めに、些細ながらややこしいことを申し上げて大変に
恐縮でした。
しかし、ともかく今しばらくはどなた様も「避密・非密・否密で密らぬ行動」
を心掛け、感染予防に御留意くださいネ。




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