日本史の「逆転」24 女帝の独善純粋数奇な生涯

ここで取り上げるのは第45代・聖武天皇(701-756年)の娘として生まれた
阿倍内親王(718-770年)のことで、後に二度までも皇位に就いた方です。
この重祚、つまり一旦退位された後に再び即位されることですが、このこと
自体が非常に稀で、長い歴史の中でもじつは御二方しかおられません。
ですから、既に数奇な境遇の中にあったとも表現できそうです。

最初の即位の際は(第46代)孝謙天皇と諡名され、二度目は(第48代)
称徳天皇でした。(※以下は称徳と表記)
ちなみに、もう御一方の重祚経験者は、こちらも女帝で最初が(第35代)
皇極天皇、二度目が(第37代)斉明天皇(594-661年)と諡名されています。


 syoutoku_tennou_01.jpg 称徳天皇(孝謙天皇)

称徳の生母は聖武天皇の妻・光明皇后(701-760年)でした。
さらに、この光明皇后の父親が政界の大実力者・藤原不比等(659-720年)
という血縁関係になっています。
露骨な言い方をするなら、光明皇后とは、皇族であることが原則の皇后の
地位に収まった、皇族ではない「人臣の娘・藤原光明子」だった女性という
ことになります。

こうした「皇族以外からの立后」は、じつは「史上初」のことでした。
その史上初の女性から生まれたのですから、称徳は生まれながらにして多分に
数奇な運命を背負っていたと言えそうです。

そして、このあたりの血縁関係もいい加減ややこしいので今一度整理して
おくと、夫・聖武天皇の母親が、妻・光明皇后の姉という関係ですから、
えぇっと、えぇっと、どうなります?
イトコ同士の結婚? いや違うな、甥と叔母の結婚ということですかねぇ。

さらに話をややこしくしているのは、この聖武夫妻の間に、後継となるべき
男子が育たなかったことです。 生まれはしました。
しかし、育つまでには至らず、じつは一年そこそこで早世してしまったのです。
そこで朝廷は、というより実力者である不比等の意向というべきでしょうが、
皇太子に若き称徳(不比等の孫娘)を就けました。 
もちろん、天皇後継者であることを広く内外に示したものです。

男子が育たなかったための窮余の一策でしたが、かくして女性皇太子の誕生
を見ることになりました。
しかし、この「女性皇太子」という立場もまた「史上初」の出来事でした
から、称徳はほとほと数奇な運命を背負っていたようです。

しかし、そういうことになってしまえば「天皇の婿」に迎えられるような
男性などはいないわけですから、結婚は諦めざるを得ません。
事実称徳は生涯独身を通しました。

そんな称徳について、数多くのエピソードが語られています。 
その多くはあまり名誉な内容とは言えないものですが、例えばこんな具合。
○セックス狂いの淫乱女帝だった。
○公私混同が甚だしく、愛人である僧・道鏡を後継天皇に就けようと画策した。
○神託ですら素直には受け入れないほどに猜疑心が強い女性だった。
○気に入らない人間の名前を変えさせることで溜飲を下げていたバカ天皇。
○十分な治療看病も受けられず「徳のない最期」を迎えた。

しかし、この称徳が、いわゆる「天武系」の最後の天皇であったことを
考え合わせれば、上のような評価?は疑ってかかるべきでしょう。
要するに、称徳の死後にはその係累はいないわけですから、どんなに
ボロクソな悪口を並べようともクレームがつく心配もありません。

であれば、冷や飯を食わされ続けてきたてきた天智系からの、称徳に対する
悪口は言いたい放題だっただろうことは容易に想像できます。
何しろ、第40代・天武天皇(生年不明-686年)が即位した673年以降、
称徳崩御(770年)まで100年近くも、天智系のお歴々は隠忍を
し続けなければならなかったのですから。


 usa_hachiman_shintaku_01.jpg usa_hachimanguu_01.jpg
 宇佐で託宣を受ける清麻呂 /宇佐八幡宮

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そうした点を含め、称徳に対する筆者の勝手な心証を並べるなら、たとえば
「セックス狂いの淫乱女帝」という悪口なぞは、まったくの事実無根だと
思います。

こうした悪口は随分と分かりやすく、また人々の関心を引きやすいことも
あって、いかにも天智系から出されそうな内容ですから、頭から鵜呑みに
することはできないというのが筆者の印象です。

というより、セックスの相手とされる僧・道鏡(700-772年)が属する
宗教界の当時の状況を睨んでも、言われているほどのハチャメチャな破戒
に精を出していたとは考えにくい気がするのです。

なぜなら、中国の僧・鑑真(688-763)が、何度目かの挑戦で、やっとの
こと日本への渡海を成功(754年)させ、それまで日本仏教界が備えて
いなかった「戒律」を伝えたのがこの少し前のことだからです。

つまり、この頃日本仏教界は、鑑真がもたらした「新次元仏教」を吸収し
消化すべく、業界?全体が盛り上がっていた時期のはずなのです。
そんな時期に、こともあろうに朝廷内部で女帝と高僧がイチャイチャを
繰り返していたなんて説明は、実際話の辻褄が合わない気がします。

また、称徳がその僧・道鏡を後継天皇に就けようとした。
あるいは逆に、道鏡自身が皇位を狙っていたという、いかにも週刊誌的な
見方も少なからぬ誤解が混じっている気がします。

称徳が道鏡を「後継者」として考えていたのは事実でしょう。
宇佐八幡宮より~道鏡が皇位に就くべし~との託宣を受けた称徳が、
和気清麻呂を勅使として同じ宇佐八幡宮に参宮させたのは、確かに
そのことの確認の意味からでした。

ところが清麻呂が持って帰った神託は、
~わが国は開闢このかた君臣のこと定まれり~
つまり、「道鏡天皇」は不可ということです。
これが、いわゆる「宇佐八幡宮神託事件」ですが、そして、このことに
すっかりキレちゃった称徳が、和気清麻呂の名をわざわざ
別部穢麻呂(わけべのきたなまろ)と改名させて罰したとされています。

こうした罰し方は現代人には子供だましのように映って分かりにくい面が
ありますが、要するにこういうことです。
~名前や言葉(言の葉)の一つ一つは霊力を備えている~
つまり、当時の人としては当たり前の、こうした言霊信仰を称徳も持って
いたということに過ぎません。  
その意味では、称徳は純粋な信仰心・心情を備えた女性だったと言えそうです。

そして、宇佐八幡宮神託の、
わが国は開闢このかた君臣のこと定まれり~という点もまた天智系が
嵩に懸かって責める材料となりました。 つまり、こんな攻撃になります。
~ああ、それなのに、あの称徳は万世一系というこの国の絶対のルールを
 無視して、天皇家とは無縁の一坊主に皇位を継がせようとしたのだから、
 どうしようもないオマヌケ女と言わざるを得ない~


万世一系という、この国の皇位継承大原則を破ろうとしたのですから当然の
非難です。 しかし、筆者はこう受け止めます。
万世一系とは日本だけで通用するルールに過ぎないので、称徳は
それを飛び越えたルールを模索したのではなかったのか?

そう考えられないわけではありません。
なぜなら、自分が一旦退位し、ルール通りに血筋で選んだ後継者、
第47代・淳仁天皇(733-765年)が、称徳からしたら超スカタンの天皇
だったからです。

では、なにさ? その「(万世一系を)飛び越えたルール」って?
ええ、当時のインテリは例外なしに「中国かぶれ」ですから、その発想も
また中国風になるはずです。

~淳仁のような大失敗もある血筋重視の日本型スタイルよりは、「徳」を
 備えた人物を後継者に選ぶ中国風のシステムの方が、絶対に先進的であり、
 科学的であり、かつ正しい!~
要するに、称徳の見立てでは、この条件に当てはまる人材こそが高僧・道鏡
だったということなのでしょう。

かくして、「女帝(称徳)の独善純粋数奇な生涯」は、21世紀の現代でも
誹謗中傷の対象になることが少なくありません。
しかし、それは誤解であり偏見であり濡れ衣であるような気がしている
筆者はこんな批評を。

~称徳は「血筋より有徳」という高邁な理想に挑戦し、そして結果として
 敗北した、独善ではあったが真摯な思想を貫いた女帝~




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