日本史の「微妙」16 神自身と神の子孫の距離

その当時を体感された方もまだまだ多く存命されているので、歴史的には
「つい最近」という感覚になるのかもしれませんが、1946(昭和21)年1月1日に
昭和天皇(第124代/1901-1989年)の詔書が出されました。

それは昭和天皇自らが自己の神格を否定した内容で、一般的には「人間宣言」
呼ばれているものです。
そこには、こんな意味の言葉も示されていました。
~天皇と国民との間の結びつきは、常に相互の信頼と敬愛によっており、
 単なる神話と伝説によるものではない~


 tenjyoumukyuuno_sintyoku_51.jpg 天壌無窮の神勅 

「神話と伝説」とした部分には、おそらくはこんなお話も意識されていたこと
でしょう。
高天原から日向国の高千穂峰に天降った(天孫降臨)際に、孫の瓊瓊杵尊
(ニニギノミコト)に対し、天照大神(アマテラスオオミカミ)が授けたとされる、
いわゆる「天壌無窮の神勅」(てんじょうむきゅうのしんちょく)です。

その内容を口語体で示せば、天照大神はこう宣言したとされています。
~豊かで瑞々しいあの国(現在の日本のこと)は、わが子孫が君主として
 治めるべき国土です。
 わが孫よ、行って治めなさい。 さあ、出発しなさい。
 皇室の繁栄は天地とともに永遠に続き、窮まることがありません~


天地(天壌)とともに永遠に続き、窮まることが無い(無窮)・・・そのように
天照大神()がおっしゃった()のですから、それらの文字を順序よく
並べれば「天壌無窮の神勅」になります。
そして、その神勅はこう強調しているのです。
~わが(天照大神の)子孫が君主として治めるべき国土です~

こうした流れの中で歴史「人間宣言」と神話「天壌無窮の神勅」を知ることに
なった筆者はこう考えました。
~そういうことなら、歴代天皇とは天照大神の子孫であるからして、ずっと
 後になって昭和天皇が「人間宣言」をもってそれを否定されるまでは、
 ずっと「神」の存在だった、ことになるなぁ~
 
実は、その傍証がないでもありません。

「現人神」(あらひとがみ)という言葉です。 意味はこう説明されています。 
~この世に人間の姿をして現れた神~
そういうことなら、「人間宣言」によって昭和天皇が自己の神格を否定する
までの間の歴代天皇それぞれは当時の「現人神」だったことになります。
これを、逆に言うなら、
~神(天照大神)の子孫である歴代天皇も、また神であった~

もっとも、この「現人神」という言葉はあまりに露骨に印象になるものか、
先の「人間宣言」では「現御神」(あらみかみ/あきつみかみ)という言葉が
使われているそうです。

しかし、生きた人間としての天皇、その「神格」を表現していることに違いが
あるわけではありません。
ここまで理路整然とした運びは、浅学菲才な筆者にとってはかなり珍しいこと
だと自画自賛です。

ここまでは順調でしたが、ところがひょっこり、こんなことを思い出して
しまったのです。
~そういえば、江戸幕府って朝廷(天皇家)に対して命令をしてたよなぁ~
当初は公家諸法度などの呼び方だったそうですが、いわゆる
「禁中並公家諸法度」(1615年)です。
その最初の言葉がこれ。 ~天子(天皇)は御学問のこと第一~

この諸法度は幕末に至るまで改訂されることはなかったそうですから、
その期間の天皇は幕府に頭を押さえられていたことになります。
そこで浅学菲才な筆者はこう考えたわけです。 
~人間の立場にある者(幕府)が神(天皇)に命令するなんて、メッチャ
 僭越で罰当たりな行動ではないか~


そして、そのような罰当たり行為?を行ったのは、なにも江戸幕府だけでは
なかったことにも気が付いたのです。
武家VS朝廷のガチンコ決戦「承久の乱」(1221年)関連に限っても、
武家(人間)側による「天皇島流し」の例はこのくらい挙げられます。

○第82代・後鳥羽上皇(1180-1239年/神器なき即位) 隠岐島に。
○第83代・土御門天皇(1195-1231年/後鳥羽の長男) 土佐国に。
○第84代 ・順徳天皇(1197-1242年/ 土御門の弟)  佐渡島に。
要するに、人間が神(天皇)を処罰するなんぞも決して珍しいことではなかった
ことになります。


 kincyuu_syohatto_01.jpg syouwa_tennou_uma_01.jpg
    禁中並公家諸法度 / 昭和天皇
  
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もっというなら、「島流し」どころか「天皇暗殺」ともいえる事件だって
ありました。
標的となったのは第32代・崇峻天皇(553?-592年)で、暗殺命令を下したのは
家臣の立場にある蘇我馬子(551?-626年)とされていますから、これなぞは
人間の手による「神殺し」ということになってしまいそうです。

そこで、天皇が「現人神」だとする受け止めに筆者自身が疑問を抱くに至り
ました。 平たく言うなら、こういう気分です。
~ほんとに「現人神」が島流しされたり、暗殺されたのであれば、
 歴史上の出来事として、もっと大きな注目を集めていてもいいはずだ~


現に「島流し」でいうなら、これより少し前にライバル・平清盛(1118-1181年)
の手によって伊豆国へ流された源頼朝(1147-1199年)の方が、少なくとも
この天皇御三方のケースよりはよく知られているでしょうし、暗殺で言うなら、
「崇峻天皇暗殺」よりも、戦国の世に起きた織田信長(1534-1582年)暗殺
事件、いわゆる「本能寺の変」(1582年)の方が遥かによく知られていると
いう事実です。

すると、筆者が抱いた下の受け止め方には無理があったことになります。
~天照大神の子孫である歴代天皇は、その時代時代における「現人神」だった~
うーん、ではどこでミステークしちゃったものか。

まずは、この「現人神」という言葉です。 言葉自体は昔からありました。
しかし、意識的に用いられるようになったのは、やや乱暴な言い切りをする
なら、「(戦前の)昭和時代」として差支えなさそうです。
要するに、次第に勢いを増してきた軍部が、自分たちに都合の良い解釈を
打ち出し、それを国民にも押し付けたということです。

その後遺症が現在もなお完全には消え去っていなかったことは、筆者の今回の
ミステークからも推察できるところです。
ひょっとしたら、筆者同様の受け止めをしていた方は現在でも少しはおられる
のかもしれません。 

では、その誤った解釈の起点はどこにあったのか?
気が付いてみればメッチャ単純な勘違いから始まっていたのです。
それは、他ならぬ天照大神の「天壌無窮の神勅」にありました。
~(この国は)わが子孫が君主として治めるべき国土です~

ここにある「わが子孫」とは、当然「天照大神の子孫」、つまり「神の子孫」
ということです。
で、浅学菲才な(せっかく覚えた新しい言葉ですから何回も使い回します)
筆者はこう受け止めてしまったわけです。

~(歴代天皇は)神の子孫なのだから、(その属性も)やっぱり神なのだろう~

ところがこれが間違いで、
~(この場合の)神の子孫とは、神のDNAを持つ子孫という意味に過ぎず、
 (その属性は)人間である~
 と受け止めるべき言葉だったようです。

もっと露骨に言うなら、早口言葉のようですが、
~神が神であることに間違いはないが、「神の子孫」とは神ではないゾ~
ということです。
なるほど、この解釈なら前出の様々の疑問も氷塊します。
天皇を島流しにしても、それは神御自身を島流しにしたのではなく、単に
神のDNAを有する子孫・天皇(人間)を島流しにしただけのことですから、
特段の神罰を恐れる必要もない、ということになります。

そして、神の子孫(神のDNAを持つ人間)である「崇峻天皇」暗殺よりも、
人間である「織田信長」暗殺の方が有名である事実も、その社会的・歴史的
な影響の大きさを考えれば当然のことなのかもしれません。

そう言えば、「東照大権現」という神になった徳川家康(1543-1616年)の
子孫は、その神のDNAを間違いなく受け継いだにもかかわらす、誰一人として
神になった者はいませんものねぇ。
このことに思い当れば、~「神の子孫」は「神」ではないゾ~の意味も
素直に受け入れることができるというものです。 めでたし、めでたし。

それにしても、ここに到達するまでにえらく遠回りしてしまったことを
思えば、「浅学菲才」とは実際哀しいことではありますねぇ。




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