日本史の「パクリ」15 天下布武は神の座から

尾張国・織田信長(1534-1582年)が、「天下布武」との印文を自分の朱印と
して用いるようになったのは、美濃攻略を成功させた後、井ノ口を岐阜と
改名し、自らの拠点を尾張国・清州からこの地へ移した1567年頃からだと
されています。

この文言は、一般的には天下統一への意識を強く示したものとの説明に
なっています。
ということは、信長の「天下布武」へ布石はこの岐阜から始まったことに
なります。

では、当時30歳代の信長は、頭の中にいったいどんなプランを描いていた
のでしょうか。
普通に考えれば、この「天下統一の意識」自体が、すでに常軌を逸したもの
ですから、どんな構想であれトンデモな発想に他ならなかったはずです。


 oda_nobunaga_01.jpg 織田信長 

だって、そうでしょ。
尾張国から美濃国への進出はなんとか成功させたというものの、実際それだけ
のことであり、天下に関わるだけの権威も権力も備えていないのですから、
「天下布武」どころの騒ぎではありません。

実際家柄一つにしてがその通りでした。
守護・斯波氏の守護代である織田家の、そのまた家老の家系にあるのです
から、天下の話題についてはハナからお呼びではないのです。

ですから、信長自身はそうしたハンデに対するそれなりの秘策を構想して
いたもと考えるべきでしょう。
そうしたものが「まったくない」ということなら、「天下布武」なんて構想
自体が単に誇大妄想ホラ吹きの大バカ者の戯言ということで終わってしまい
ますものねぇ。

確かに、力に任せて近隣のライバル大名をいくつかねじ伏せるところまでは
できるかもしれません。
しかし、これだけでは自領を多少増やすだけのことで、家柄などのハンデを
払拭させることにはなりません。

「天下布武」を目指すからには、その意を「天下」(社会全体)に納得させる
だけのものを、信長自身が備える必要がありました。
はたしてそんなに都合の良いものが、この「何でもあり/強い者勝ち」の
戦国乱世にあるのかしらん?

仮にあったとしても、それは誰も気が付いていないものということになります。
もし誰かが気が付いていたとしたら、その人間が真っ先に実行していたに
違いありませんから当然の話です。

そうした信長が視線の先に捉えたのはライバルである大名連中の姿では
ありませんでした。
ライバル大名同士が互いに争ったとしても、その結果は各々の自領が少し
増えるか減るかだけのことで、つまるところはローカルニュースの一つに
すぎず、「天下」に対する影響力はないか、仮にあってもひどく限定的な
ものだからです。

信長が注目したのは実は「天皇」でした。
この頃の天皇家はそれこそ「赤貧洗うが如し」の状況にありました。

例えば、当代の第106代・正親町天皇(在位:1557-1586年)は即位式の実施
を「2年待ち」しなければならないほど「貧乏」でしたし、その先代に当たる
第105代・後奈良天皇(在位:1536-1557年/正親町の父親)にいたっては、
即位式を挙げるまで「10年待ち」せざるを得ない状況にあったのです。

えぇ、少し気取って言うなら「資金調達が叶わず」ですが、もっと直截な
言葉なら、それほど貧乏だったということです。
そうした「超貧乏ぶり」を目の当たりにしながら、信長は「天皇」に注目
したのです。

~超貧乏なばかりか、その上に武力ゼロの完全非武装という素っ裸の状況に
 ある「天皇/天皇家」を、だぁれも潰そうとせぇせんのは、いったい
 なんでだゃあ?~

深い疑問ですから、ついついお国言葉(尾張弁)で考えます。


 tenkahubu_51.jpg aduchijyou_bunkamura_51.jpg
 天下布武 / 安土城
  
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よくよく眺めてみるなら、実際には「潰す」どころか、少なからずの有力大名
たちが先代や当代の天皇に対して経済的援助の手を差し伸べているのです。
他国の大名が相手だったら、決して見せることのない姿です。

そうした姿から、信長なりの解答を導き出しました。
~天皇を滅ぼそうなどと誰も考えないのは、その権威が神様(天照大神)の
 御子孫だ(とされている)からに違いにゃあ~
 つまり、
~神が遂行する「天下布武」なら、誰も抵抗せぇせんし、できせんはずだ~

その点に気が付けば、必然的にこうなります。
~だったら、オレ織田信長は「神」にならないかんということだぎゃあ!~
深い発見ですから、ここでもお国言葉(尾張弁)が飛び出すのは無理も
ありません。

しかし、これは信長オリジナルの発想だったかもしれません。
確かに、神通力の秘法・飯縄権現の術を会得したと主張した、あるいは
それに類する気分を抱いた武将や、他にも自分が武神・毘沙門天の生まれ
変わりだと信じていた越後国・上杉謙信(1530-1578年)などがいたのは
事実です。

とはいうものの、信長の目論見は「自らが神になる」という、今まで誰も
やったこともなければ、見たことも聞いたこともない、まったく初めての
ことでしたから、当時の人たちの理解が及ぶことは考えにくいばかりでなく、
それどころか、実を言うなら現代人だってついついせせら笑ってしまう
ようなお話です。

~その辺の新興宗教でもあれせんだろうに、稀代の英雄・信長が「自分は神だ」
 なんて、そんな奇妙奇天烈な主張をするはずがにゃあがや!~

すいませんねぇ、こんな印象を持った人物も尾張者だったようです。

それはともかく、信長が「神になる」ことを目指していたのは歴史的事実と
言っていいのでしょう。
なぜなら、天皇家ばかりでなく本願寺との関りを経て、信長がそうした思いを
さらに強めていったようにも見えるからです。
本願寺法主・顕如(1543-1592年)が大坂・石山本願寺に籠って戦った
「石山合戦」(1570-1580年)で相まみえたのは他ならぬ信長でした。

その本願寺がハンパでなく強かったことはその期間が11年の長きにわたった
ことや、さらには信長がとうとう最後まで「本願寺降伏」を実質的に勝ち取れ
なかった事実からも分かります。
天皇の仲介により、一応の休戦を受け入れたものの、それがなければ信長は
さらに長期の合戦を強いられたに違いありません。

~本願寺はメッチャ強いッ・・・ そんだけど、なんでだゃあ?~
そこで信長がハタと気が付いたことは、法主・顕如が浄土真宗開祖・親鸞
(1173-1363年)の直系子孫に当たるということでした。

天皇が天照大神の直系子孫つまり「生き神」ということなら、信徒たちに
とっては、法主・顕如は開祖の直系子孫つまり「生き仏様」ということになり、
反逆や反抗などは考えらないことであり、その指示や命令は絶対です。

事実、石山合戦の際には「進者往生極楽 退者無間地獄」という檄も
飛んだとされています。
~ここで前進するならば極楽に往生することができようが、退いてしまう
 ようならば無間地獄に落ちることは間違いないゾ~

で、籠城した信徒たちは老若男女の別なく命を惜しまず戦い続けたのです。

そうした天皇や法主の立場を、信長はこう受け止めました。
~天皇や顕如のような「生き神」や「生き仏」に手を下そうとする人間は誰も
 いないし、その意向は命令と同じ効力を備えている~

つまり、完全な「天下布武」への近道は「自身が神になる」ことだと再確認を
したわけです。

ですから、新たな居城と建設された安土城が、むしろ「信長神殿」と呼ぶ
べき構造・仕掛けを備えていたことは当然かもしれません。
そして「自ら神になる」という信長の画期的なアイデアに気が付いたのが
家臣であった豊臣秀吉(1537-1598年)であり、同盟者であった徳川家康
(1543-1616年)だったわけです。

それが証拠に、秀吉も家康も死後には神様仏様の仲間入りを果たし、
「豊国大明神」「東照大権現」と呼ばれました。
しこで思うのですが、信長の「神になる」というアイデアがなかったと
したら、この二人の新神様・新仏様、日本史に登場することはなかった
ことでしょうね、きっとなら。




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