日本史の「異国」09 先人は手足一致で歩いた?

~右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して前に進む歩き方~
これが、いわゆる「ナンバ歩き」と呼ばれる歩行法の説明です。
もっともこの文章だけの説明だけでは分かりにくいでしょうから、
ついでのことに参考画像も補足しておきます。


namba_walk_harunobu_01.jpg namba_walk_yakko_01.jpg
 ナンバ歩き?(左右の手と足の位置関係に注目)

同じ側の手と足を同時に出すなんて、子供の頃にこんな歩き方をしようもの
なら、周りの大人たちから注意・警告が飛んできたものです。
つまり、現代人の常識から外れた多分に異様な歩行法ということになります。
その多少の違和感が気にかかって、そのナンバ歩きについて、ちょっと
知ってみたくなった次第です。

「ナンバ歩き」・・・こうした堂々たる名称がすでにあるということは、
すでに世間ではそれなりに認知がされていたことになります。
その意味からすれば、筆者が知らなかったのは単に己の無知ですから、
気分的には少し凹みもします。
しかしまあ、それはそれとして、この歩行法を探ってみると、さらに
意外な仮説にぶつかりました。

~明治以前の日本人はこの歩行法だった~ ええっ、ホントっ?
「講釈師見てきたようなウソをつき」ではないことを願いつつ、もう少し
進んでみると、そうした仮説の根拠の一つとして、昔の風俗・光景を描いた
絵画の類が挙げられています。 上のような例です。

そうした絵に配された人物の手足部分を注意深く眺めてみると、確かに
~当時の日本人の歩き方は手に何も持たない場合は、
 腕や上半身をあまり振らず、腕を振る場合は出た足と同じ側の手が
 わずかに出るような動き~
 このようにも見えなくもありません。

ただし、このことだけを根拠として、
~明治以前の日本人はこの歩行法だった~と断定してしまうのでは、
いささか短絡的で強引な仮説ということにもなりましょう。

そこで、その手の批判をかわす意味からか、もう少し鷹揚に構えた
見解もあるようです。
~江戸時代においても、ナンバは訓練された特殊な動きであり、
 一般の日本人の皆が皆このような動きをしていたのではない~

うーむ、そうかもしれんし、そうでないかもしれん。

そこで、筆者の頭に浮かんだのがこんな考え方です。
~日本の旧来の習慣など多くのものが変貌を見せた明治期のいわゆる
 文明開化によって、日本人の歩き方も変化したのであれば、そうした
 点は記録として文献等にも残されているのではないか~
 
我ながら鋭い着眼点です。

ところが、これも確証を得るまでには至らないのです。
~歩行は日常の習慣的動作であり、これについて詳細に書き留められる
 ことはほとんどなかった~
 こうした背景があるからです。 
そりゃあそうかもしれん。
日常のごくごく当たり前の事柄をわざわざ書き残す奇特な人は、
そうそうはいないでしょうからねぇ。

そういうことなら、この時期に日本を訪れた外国人の記録を探せば
いいのではないか。
多数迎えた、いわゆる「お雇い外国人」の中には、我が目に映った
日本人の言動にある種のカルチャー・ショックを感じ、それを書き
残した御仁もいるのだから、その中には「ナンバ歩き」についての記事が
あるやもしれぬ。

ちなみに、「お雇い外国人」とは、
~日本の近代化過程において、江戸幕府および諸藩、続いての明治政府
 や民間の会社・学校などが、ヨーロッパ、アメリカの先進文化を急速に
 移入するために、各分野・部門にわたり指導者ないし教師として雇用
 した外国人~


そこに、たとえばこんな内容の記事があったとしたなら、動かぬ証拠に
なります。
~日本人の歩き方は右手と右足、左手と左足をそれぞれ同時に出して
 前に進む方法であり、この点ばかりは我々とは全く逆である。
 よくもまあ、そんな動作で転びもせず歩けるものだッ!~


kabuki_roppou_01.jpg takeuma_01.jpg 
 歌舞伎・六方/竹馬

 応援クリックを→ にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ ←にほんブログ村



幕末期から明治初期の訪日外国人の見聞録を探ってみると、日本人の
歩行の特徴に関する記述が少なからずあるものの、「ナンバ歩き」を
明確に指摘した文献は見当たらないとされています。

ですから江戸日本人の歩き方については「ナンバ歩き」だったとも、
ではなかったとも、いずれにせよ断定するには至りません。
しかし、いまさらですが、そもそもその「ナンバ歩き」の「ナンバ」って、
いったい何のことなの?

これが分からなくてはモヤモヤ気分のままですから、チョイ調べて
みました。
「ナンバ」とは、とうやら日本古来の歌舞伎のある動作方法を指した
言葉らしいのですが、しかしその方面にとんと疎い筆者にはイマイチ
理解が及びません。

右往左往していると、こんな説明にぶつかりました。
~(歌舞伎の)演技で、動作の躍動感を誇張したり、迫真に満ちた
 顔の表情を見せるために、同じ側の手と足を十分に振り動かして
 歩いたり構えたりする、これを指してナンバという~


歌舞伎・人形浄瑠璃・舞踊の演出の一つである、いわゆる六方(ろっぽう)
がその典型的な動作だそうです。   
話がなかなか先へ進みませんが、だったらその六方って?
~伊達や勇壮なさまなどを誇張したり美化した荒事の要素をもつ所作で、
 名称は天地と東西南北の六つの方向に手を動かすことに由来する~


語源はなんとか掴めたものの、では肝心の動作はどうなのか?
~基本動作は、左足を出すときは左手を、右足を出すときは右手を
 それぞれ出す、俗に「なんば」というもので様式を重んじる~

現代人の歩行スタイルとしてはいささか廃れた印象は否めないものの、
どうやら歌舞伎の舞台では現役ばりばりの動作のようです。

また、子供の遊び道具の一つである「竹馬」の歩行方法がばっちり
「ナンバ歩き」になっているとの説明もありました。
確かにそうだ。 竹馬の場合はイヤでも自然に
~左足を出すときは左手を、右足を出すときは右手をそれぞれ出す~
スタイルになるものねぇ。

もしそれに逆らった動作を取るなら、たぶんそれは難しいことである
ばかりか、結構ヤバイことにもなりそうです。
歌舞伎に竹馬・・・こうなると妙に和の雰囲気が漂ってくるなぁ。

ならば「ナンバ」って日本民族独特の動作ということなのか?
どっこいそれがそうでもないようで、この動作は外国人も取り入れている
とのことです。
たとえばスキーの歩き方であるテレマークはナンバに類似したものと
されています。
手と足の連動関係を考察すれば、確かにそんな印象がします。

というより竹馬と同じで、ここは「ナンバ歩き」でないとかえって
不都合なハズです。
その意味では「ナンバ歩き」は日本民族の専売特許でもなく、また
シェアを独占しているわけでもないことになります。

ここまで分かってきたので、筆者の散歩にもこの「ナンバ歩き」を
一部取り入れてみました。
もっとも、体に染みついている永年の歩行法とは別物ですから、最初の
うちは手足それぞれにそれなりの意識を必要としました。

ところが少し慣れれば、そうした特別な意識も必要としなくなり、割合と
快調に歩くことができるようになったのです。
ただ、これから「ナンバ散歩」を志す方に筆者の経験からひとつ
アドバイスを。

~なるべくなら、他人様の目の届かないところで行うがよろしいゾ~
なぜなら、「ナンバ歩き」を知らない無知な奴らが、その歩き方に対して
怪訝な視線を遠慮なしに向けてくるからです。
慣れないうちは自分の手足の動きより、むしろそちらの方に大きな意識が
働いてしまい、それなりに疲れるものですよ。




 応援クリックを→ にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ ←にほんブログ村



--直近の記事---------------------------
631 日本史の「冗談?」19 建前揃えの軍事政権 平穏な実情に勇猛な名称
630 日本史の「偶然」02 禍災は不徳がもたらす 新型コロナと歴史犠牲者
629 日本史の「落胆」06 戦国の赤貧天皇三代記 葬式も即位式も生活費も
628 日本史の「ライバル」05 太陽暦の閏日と太陰暦の閏月 太陽と月の閏
627 日本史の「付録」12 頭のテッペンも朱子学 月代髪型は祖法である
626 日本史の「数字」02 西暦ちょっきり年の出来事 西暦下二ケタが00年
----------------------------------
ヤジ馬の日本史~超駄級・600記事一覧~ №501-599編 だがしか史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・500記事一覧~ №401-499編 満腹握りめ史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・400記事一覧~ №301-400編 颯爽ろくでな史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・300記事一覧~ №202-299編 堂々肩すか史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・200記事一覧~ 後編「な→ん」巻 あゝ七転八倒!
ヤジ馬の日本史~超駄級・200記事一覧~ 前編「あ→と」巻 七転び八起き!
----------------------------------

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント