日本史の「冗談?」19 建前揃えの軍事政権

~軍隊の力を背景に、軍人が政治権力を掌握して支配する政府の形態~
これが「軍事政権」に対する一般的な説明です。
もしそういうことなら「江戸幕府」(1603-1867年)という存在もまた
その「軍事政権」に該当しそうです。
戦を勝ち抜くことで他の存在を屈服させ、その上に樹立された政権だから
です。


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大名行列

その過程には、徳川家の抵抗勢力を力でねじ伏せた「関ヶ原の戦い」
(1600年)やら、二度にわたる「大坂の陣」(1614/1615年)もありました。
しかし、その後においては江戸幕府が力ずくの「軍事政権」であることの
印象は希薄になっています。

二百数十年もの長きに渡って平和を持続したことが、そうした軍事政権
という印象を薄めているのかもしれませんが、どうやら幕府自身にも
その自覚があったようです。
「軍事政権」であることに過剰な気配りを見せているのです。

えぇ、この場合の建前って「本音と建前」のそれで、要するに、
~(自分の本心)本音/建前(他人向けの心情)~のことです。
もう少しクドい言い方をするなら、
~何かしらに対する人の感情(本音)と態度(建前)との違い~
ほど意味の「建前」です。

江戸幕府とは、実際には「建前」に過ぎない多くの事柄を、建前では
ないとして扱う努力をとことん惜しまなかった政権と言えるのかも
しれません。
順不同ながら、そうした事柄を思いつくまま並べてみましょう。

実質的には、大名が参勤交代や江戸城登城などで公式外出する際の
行列を指す言葉である「大名行列」。
これ自体が、既に多くの点で建前に過ぎないものでした。

江戸城登城などは実際には平和な集団通勤に過ぎませんし、参勤交代とて、
実質的には赴任団体旅行程度のことです。
しかし建前としては、それを「軍事パレード」あるいは「作戦行動/
部隊転進」に準ずる行動と見做していました。
武士による軍事政権ですから、単なる「集団通勤」や「赴任団体旅行」
では迫力も不足だし、そればかりか民に対してもいささかカッコウが
つかないと考えたのかもしれません。

普通の「赴任団体旅行」なら道具箱持ちなどの中間や人足、あるいは
草履取や医師など大名身辺に仕える者たちが連なればそれで事足りて
しまいます。
ところが徒歩の武士だけでなく敢えて槍や弓や鉄砲など兵器類まで携えた
随員をこうした行列には加えているのです。
「作戦行動/部隊転進」の建前を貫いた姿勢と言えます。

また、その途中にある街道の宿泊施設を、一般旅行者の場合は
「旅籠」と呼ぶのに対し、大名行列は「本陣」と呼びました。
ホテルなんかじゃないゾ、自軍の拠点であり野営陣地なんだゾと言って
いるわけです。
しかしその「本陣」たるや、雨露を凌ぐ屋根もあれば布団を敷いて寝ら
れる施設ですから、野営陣地なんて言い分はモロに建前に過ぎません。

そうしたことばかりではなく、早い話が幕府公式学問「朱子学」の思想
である「士農工商」とする身分制度もその通りです。
確かに「(士)官/民(農工商)」と分けて考えるくらいは、身分に
対する意識はあったのでしょうが、朱子学が唱えるような厳然とした
身分序列制度としての「士・農・工・商」にはなっていなかったはずです。

なぜなら、「身分を買う」ことだって実際にはやっていたからです。
もちろんこれは「身分屋」という店舗で販売しているわけではないの
ですが、実際にはこのような売買?の方法もあったとされています。


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        黒船来航 / 大政奉還 

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身分制度がすっかりなくなってしまった現代においては、身分を売る、
あるいは身分を買うということ自体が分かりにくいのですが、どうやら
初めはこんな案配だったようです。

~旗本や御家人の次男三男を、裕福な商人や名主などの家へ養子に入れる~
つまり、当時は嫡男の家来になるしか道がなかった次男三男を金満商家が
自分の家に迎え入れることで、経済力に乏しい旗本や御家人は経済的な
後援者を得られ、商家は商家で武士という身分をゲットできるわけです。

これは、持ちつ持たれつ、今風の言い方なら双方がウィンウィンの関係と
いうことになり、確かにグッドアイデアでした。
そして双方が味をしめるようになると、その手口も次第に巧妙化して
いきます。
たとえば、貧乏に窮してしまった武士家では、長男であっても敢えて
「廃嫡」として、そこにお金持ちの息子を跡取り養子として迎える、
こんなことさえあったとされています。

要するに「士農工商」という身分は必ずしも絶対的なものではなく、
経済的安定を求める者と、武士身分を欲しがる者との間においては
それなりの融通がきく、多分に「建前」的雰囲気に満ちていたことにも
なりそうです。

そこでよくよく眺め直してみれば、「幕府」という名称そのものが、
すでにその「建前」に当てはまっていることに気が付きます。
だって、そうでしょう。 
「幕府」という言葉の元を辿れば、戦闘時における天幕(テント)を
設けた場所、つまり「前線基地」ほどの意味だったのですよ。

そうした「幕府」という言葉に変更や改変を加えることのないままに、
平和時においての実質的な中央政府としていたのですから、これも
軍事政権であることを強調・脚色する意図があっての故意の怠慢という
ことでしょう。 つまり、これも建前です。

さらにいえば、「征夷大将軍」も同じ線上にある言葉のように感じられ
ます。
元来は野蛮な異民族を征討する軍の司令官ほどの役職ですが、法律的な
規定もない、いわゆる「令外の官」に過ぎません。
それが武士による幕府政治が登場したことに伴い、施政者のトップを
意味するようになり、その伝統を江戸幕府も引き継ぎました。

「退屈なほどに平和だった」とも揶揄される時代の施政者トップの職名が
なんと、本来は国軍司令官を意味する「征夷大将軍」。
これ以上の建前もありません。
しかし「軍事政権」である以上、トップに勇ましい肩書を付けたがるのは
何も日本に限ったことでもありません。
早い話が、同じく軍事政権である北朝鮮も、江戸日本と同様に最高指導者
を「将軍サマ」と呼んでいるそうですからね。

こうした日本の軍事政権がいかに建前だけのことだったのか、さらに
分かりやすい事例もあります。
軍事政権の権威権力は、そこに備わった軍事力で担保されるものです
から、理屈としても「貧弱な軍事力の軍事政権」とか「丸腰の軍事政権」
なんて存在はあり得ません。

ところが、江戸幕府という「軍事政権」はその肝心な軍事力を充実させる
ことにとことん無頓着・無関心でした。
たとえば「鉄砲」という武器ひとつにしても、開府当時、つまり戦国時代
の能力のままで、その後に改良や新開発を目論んだ気配もうかがえない
のです。

そんな事情もあって、二百五十年後の幕末には「軍事政権」らしからぬ
ドタバタを演じました。
~泰平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず~
攘夷貫徹を国是とした(これも建前だけだったのかも?)軍事政権と
しては、海外相手国に対しても、また自国民に対しても、なんとも
お粗末な姿を晒してしまったことになります。

そんな姿を見せつけられたなら、
~こんなに頼りない軍事政権なら必要ないのでは?~
こんな意見が出てきても不思議ではありません。
そして事実、そうした意見が登場したことで、建前揃えの軍事政権・
江戸幕府はその終焉を迎えることになりました。

それが「大政奉還/大政(国政)を奉還(お返し奉る)」(1867年)。
つまり、~武士がお預かりしていた政権を今回朝廷にお返しいたします~
このように言っているのですが、じつはこの表現も「建前」以外の何物
でもありません。

なぜなら、その歴史的実態からすれば、朝廷から「預かった」なんて
言い草はとんでもない冗談もどきの言い訳であり、はっきり「奪い取った」
ものなのですからねぇ。
そうしてみると、江戸幕府って結局のところ、どこまで行っても「建前」
のオンパレードということになりそうだ。 あっちゃー!




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