日本史の「世界標準」27 誰が誰に?五箇条の御誓文

明治維新の経緯の説明では、「五箇条の御誓文」という言葉がよく登場します。
~そう言えば、学校の授業でもそうだったなぁ~
この程度に無頓着な受け止めをしていた筆者ですが、ある日、
ヘソ曲がり系の友人がこんな疑問を投げかけたのです。
「五箇条の御誓文」って、いったい誰が誰に何を誓ったのだ?~

 5kajyouno_goseimon_02.jpg 五箇条の御誓文

虚を衝かれるってこういうことでしょうか。
それまでは内閣方針とか国会決議もどき、あるいは憲法に基づいた行為
くらいに漠然とイメージしていたのですが、気が付いてみれば、これは
明らかにおかしいのです。

調べてみて初めて気がついたことですが、なぜなら、
○1885年(明治18) 内閣制度の発足 
○1889年(明治22) 明治憲法の公布(施行は翌1890年)
○1890年(明治23) 最初の国会を開催 
となっていて、どれもが「五箇条の御誓文」の登場(1868年)より
ずっと後のことだからで、だったら、それらに基づいた行為では
あり得ません。

そこで、ヘソ曲がり友人のためにも一肌脱ぐ覚悟で、その
「五箇条の御誓文」そのものに迫ってみると、こんな内容になって
います。
もっとも、オリジナルの文言はカタカナ混じりの上に、いささか
小難しい漢字が並んでいるので、念のために現代表記に直してみると、

一 広く会議を興し、万機公論に決すべし。
一 上下心を一にして、さかんに経綸を行うべし。
一 官武一途庶民にいたるまで、おのおのその志を遂げ、人心をして
  倦(う)まざらしめんことを要す。
一 旧来の陋習を破り、天地の公道に基づくべし。
一 智識を世界に求め、大いに皇基を振起すべし。

ああぁ、思い出してきたゾ。
授業の時、この「さかんに経綸を行うべし」の部分で、
~上の者から下の者までが一緒になって、盛んに競輪をして
 どうするんだ!~

受け狙いのこんなツッコミをかましていたヤツがいましたっけ。

お話が逸れかかっていますが、あれこれ調べていると、核心めいた
こんな説明にもぶつかりました。
~五箇条の御誓文は、1868年(明治1)に明治天皇が天地神明に誓約
 する形式で、公卿や諸侯などに示した明治政府の基本方針である~


これを「5W1H」風に整理してみると、
Who/  だれが → 第122代・明治天皇(1867-1912年)が。
When/   いつ → 1868年(明治1)に。
Where/ どこで → 京都御所の正殿・紫宸殿の祭壇前で。
What/  なにを → 五箇条の御誓文を。
Why/   なぜ → 明治政府の基本方針を訴えるため。
How/どのように → 天地神明(祖先神?)に固く誓う形式で。

ついでのことに「だれに向けて」という点に注意を払うと、
~公卿や諸侯などに示した~とされており、現代でいう「一般国民」
に向けてのものではなかったことが分かります。

いずれにせよ仰々しいばかりでなく、「天地神明」なんて言葉まで
登場させているのですから、いやがうえにも宗教色の強い印象に
なります。
そのせいもあって、現代人の中にはこの「五箇条の御誓文」自体に
~やたらと宗教(神道)臭いばかりで、こんなのは新時代には
 似合わない~

こうした抵抗感を覚える人も少なくないようです。

しかし、神様に誓うというスタイルは、なにも日本独自のものでも
なく、他の宗教、たとえばキリスト教にもよく見られるところです。
これは映画などでもよく描かれる光景ですが、裁判の証人として立つ
ときは「聖書」に左手を置き、右手を上げて宣誓することが必要
ですし、大統領に就任するときにも同様の宣誓を求められます。

要するに、日本が御誓文を通じて天地神明に誓うなら、キリスト教は
聖書を通じて神に誓うわけです。
こんなところを眺めてみると、洋の東西を問わず人間のやることは
そんなに変わらないのかもしれません。


 5kajyouno_goseimon_01.jpg meiji_tennou_01.jpg 
五箇条の御誓文(京都御所・紫宸殿)/第122代・明治天皇

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さて、次にはその「五箇条の御誓文」そのものの内容のも触れてみます。
そのために現代語に直して多少わかりやすくしてみると、どうやら
こういうことを言っているようです。

そして、下段の(→)部分が、行間に滲ませた旧政権・江戸幕府に
対する批判・当てつけなのかもしれません。
○広く会議を開いて、政治のすべてに人々の意見を反映させましょう。
 (→「御政道に口を出すな」が幕府のやり方だった)

○上の者も下の者も心を一つにして、国を治めていきましょう。
 (→下々の者は天下国家とは無縁の存在だった)
○官から庶民まで身分不問で誰もが志を全うできるようにしましょう。
 (→幕府時代の古い身分意識「士農工商」は早く払拭しなくっちゃ)

○今までの悪しき習慣はやめて、国際社会に合った行動をしましょう。
 (→鎖国政策で国際社会に背を向け続けていた旧政権・幕府は
   モロに悪であり、新政府の開国路線こそ正しい)
○世界から新智識を学び、天皇政治の基礎を築いていきましょう。
 (→幕府・将軍は旧弊であり、朝廷・天皇こそ新時代に相応しい)

ちなみに、上の「会議」とは列侯会議、要するに「大名会議」のこと
であり、また「庶民」とは、筆者のような正真正銘・疑いようもない
庶民のことではなく、この当時は、豪農・豪商(その地方の有力農家・
商家)のことをいったそうですから、全体としては国民の政治参加が
認められたのは、恐ろしく限定的な範囲だったことになります。

それでもまあ、こうした意識・思想を当時の最新トレンドとして、
その実現を真摯・真面目な態度で「天地神明」に誓ったわけです。
ですから、この「五箇条の御誓文」に表現されていることを、乱暴に
一口で言い表すなら、西欧とはひと味違う「日本型民主主義の理念」
とでも定義できるのでしょうか。

ということは、明治新体制が一応の定着を見せたからといって、
この「理念」が御役御免になってしまうことはありません。
じつは、その影響力は遥か後世の昭和時代にも及んでいました。
~戦後、昭和」21年(1946年)1月1日の昭和天皇の、いわゆる
 人間宣言において御誓文の全文が引用されている~


1946年マイナス1868年ですから、なんと78年後になっても、この
「五箇条の御誓文」は現役として影響力を発揮していたことになります。
しかし、なんでまたこんな遠い時期にも「五箇条の御誓文」なの?

当の第124代・昭和天皇(1926-1989年)は、後(1977年)にこう述懐
されています。
~五箇条御誓文を発して、それが基となって明治憲法ができたんで、
 民主主義というものは決して輸入物ではないということを示す
 必要が大いにあったと思います~
 

敗戦国・日本が連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/進駐軍)の
統治下にあったこの時期に、
~我々(日本人)は78年も前から民主主義を持っていたのです~
と主張したことになりますから、よくもまあ、こんな主張をGHQが
容認したものだ。

こればかりではありません。
昭和天皇のいわゆる「人間宣言」からほぼ半年後のこと、日本国憲法案
の審議に際して、首相・吉田茂(1878-1967年)もまた「五箇条の御誓文」
に触れているのです。

~御誓文の精神、それが日本国の国体であり、日本国そのものだった~
さらには、
~この御誓文を見ても、日本国は民主主義であり、デモクラシー
 そのものであった~
その後には、ダメ押しするかもようにこんな言葉も続いています。
~君権政治とか、あるいは圧制政治の国体でなかったことは明瞭~

これまでちっとも気が付かなかったこととはいえ、こうして眺めて
みると、「五箇条の御誓文」の歴史的意義って、随分と大きかった
ようですねぇ。
そうすると、こんな受け狙いのツッコミをしていたヤツって、
トコトンのバチ当たり?
~上の者から下の者までが一緒になって盛んに競輪をしてどうするんだ!~




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