日本史の「トンデモ」02 曲学阿世のイチャモン術

「林羅山」(1583-1657年)といえば、23歳の若さで徳川家康(1543-1616年)の
ブレ-ンに収まったほどに優秀な学者さんですが、反面ちょいとばかりクセの
ある?人物でした。
失礼を承知の上で言えば、「曲学阿世の徒」※という言葉に当てはまる
印象を備えた人物ということです。
※真理を曲げて世間や時勢に迎合する言動を取る人物。

ということは、必然的に批判?悪口?めいた言葉が並ぶことになるわけで、
その点今回は楽しい話題になりそうもないことを予めご了承ください。

さて、この羅山には数多のエピソードがありますが、その中でも殊に有名な
事例を挙げるなら、豊臣家と徳川家がまだ対峙している時代の、いわゆる
「方広寺鐘銘事件」(1614年)になるでしょう。
この時に羅山が放った筋の通らないイチャモンが、豊臣家を窮地に追い詰め、
目的通りについには滅亡へと導いていったからです。

もっとも、このことは羅山個人が演じたスタンドプレーというものではなく、
むしろ権力者・家康と学者・羅山らがグルになって豊臣側に仕掛けた策略と
見た方が適切なのかもしれません。
彼らは梵鐘の銘文に「国家安康」「君臣豊楽」の文言を見つけるや、
これらには徳川家を呪詛する呪文?の疑いがあるとして問題視したのです。

~この「国家安康」との文言は、家康様の名を分断した上に、呪いをかけた
  まことにもって 言語道断のトンデモない所業であるッ!~
~また「君臣豊楽」に至っては、豊臣を君主と仰いで栄えようという意味
  だからして、家康様を貶める意思が露骨に顕れているッ!~


しかし、考えてみればこうしたビッグ・プロジェクトは、天下人である徳川家の
意思を無視して進められることではく、当然、豊臣家側とて「原稿」の段階で
すでに、徳川家側の事前承認?を得ていたことと想像されます。

にもかかわらず、完成後になって、こんなことを言い出すのですから、
これはもう完全に後出しジャンケンであり、言い換えれば理屈の通らない
「ためにするイチャモン」にほかなりません。

ところが、「イチャモン」はこればかりではありませんでした。
ついでというわけでもないのでしょうが、併せて「右僕射源朝臣家康」との
文言にも、結構ひねくれた見解を披露しています。
~これは「家康様を(弓で)射る」との意味であって、メッチャけしからん!~
これも実はトンデモの「イチャモン」で、右僕射」とは単に「右大臣」の意味で
あることを(筆者は知りませんでしたが)、優秀な学者である羅山が知らない
ハズがないのです。

さらには、その8年ほど前の、いわゆる「地球論争」(1606年)も割合よく
知られた事件と言っていいのでしょう。
「地動説/地球球体説」を主張するキリスト教の日本人修道士イルマン・
ハビアン
(本名不詳/1565-1621年)を相手にした羅山は
「天動説/地球方形説」を持ち出して対抗しました。
羅山より50年ほど前に生まれた織田信長(1534-1582年)でさえ、
~「地球儀」を見せられて「地球が丸い」ことを理解した~とされているにも
関わらずです。

本来なら純粋に「科学論争」として扱われるべきテーマは、ハビアンが
キリスト教徒だったこともあって、羅山には羅山なりの腹積りがあって敢えて
「宗教論争」に持ち込んだのかもしれません。
詳しい経緯までは知りませんが、ともかくオッソロシイことに、相手の主張を
論破、つまり真理であるはずの「地動説/地球球体説」を否定しただけでなく、
真理でない「天動説/地球方形説」をハビアンに納得させることにも
成功しているのです。

多分、羅山には、「ああ言えば(即座に反論)こう言う」反応ができる口達者の
才能を備えていたのでしょう。
通説では~信仰に動揺を来たしたハビアンはその後(キリスト教を)棄教した~
そうですから、随分とお気の毒な羽目に陥ったわけですが、言葉を換えれば、
羅山の常識外れのトンデモな「屁理屈」が、ハビアンを底なしの「真理不信」に
追い込んだということなのかもしれません。

 地球四角52 方広寺釣鐘51










「地球方形説」(地球は四角い?)/方広寺鐘銘(君臣豊楽/国家安康)

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そうしたこととは別に、「宗教に対するスタンス」を巡る問題もありました。
「幕府に仕える僧侶」という立場にありながら、羅山は「仏教批判」という
行動も取っているのです。
こうした態度が、なんとはなしに家康の目の色を窺いながら?尻尾を振る
姿にも重なり、一層「曲学阿世」の感を強めてしまいます。

悪口並びでだんだん気重になってきましたが、実はまだあるのです。
こうしたいささかクセのある言動は、学者の商売道具?である「書物」に
ついても、少なからず発揮されていました。

たとえば、それまでに羅山が読破した書物は優に数百冊はあったとされて
いますが、しかし、こうしたことは本人が言うなり、披露しなければ外に出る
ことのない情報ですから、おそらくは常日頃から自身が自慢気に口にしていた
のかもしれません。

さらには、その書物の「読み方」についてもその通りで、なんでも一目で
五行ずつを読んでいき、なおかつそのすべてを覚えているという、とてつもない
「速読達人」のレベルにあったそうです。 (ホントかいな?)
しかし、これも「一行ずつ」か、はたまた「五行ずつ」なのかは、他人が見抜ける
ことでもないので、このニュース・ソースはおそらくは羅山御本人なのでしょう。

しかし、誕生ホヤホヤの幕府がその骨格を作り上げていく過程で羅山が
大きな役割を果たしたのも事実です。
たとえば、骨太幕府を構築するために、「朱子学」という「新標準」を取り
入れ、それを消化していく作業過程にも、また新秩序である「士農工商」の
身分制度を定着させていく過程にも、それを納得させるためには、羅山が
備えた高い理論理屈能力が不可欠でした。

確かに、こうした面は「地球方形説」(四角い地球)を認めさせるくらいの
口八丁、つまり、「ああ言えば(即座に)こう言う」ことができる能力が羅山の
独壇場で、このことは到底他人様の及ぶところではなかった気もします。

ちなみに、羅山は「明暦の大火」(1657年)で自宅と書庫を焼失し、
そのわずか四日後に亡くなっています。
この書庫焼失のショックが死の原因だったとするなら、その意味ではやっぱり
根っからの「学者」さんだったのかもしれません。 享年75歳。

それにしても、どんな理論理屈をもって「地球方形説」が「地球球体説」を
論破できちゃったのか?・・・誰もが一番知りたいと思うであろうこの点の
詳細についてはあまり触れられていないようです。
さりながら、こんな超理論?がまかり通ったような気がしないでもありません。

その根源には、家康・羅山コンビが熱心に迎えた「朱子学」があって、そこら
あたりの理論理屈を突き詰めていくと、なんでも「士農工商」の身分制度でさえ、
「本来のあるべき姿」ということになるようであり、さてここからは多分ですが、
同様に「天動説」もさらには「地球方形説」も疑いのない真理である・・・という
ことになってしまうのでしょう。

ですから、羅山が発揮した朱子学仕様の理論理屈は確かに凄いパワーを
備えていたわけで、かつてのハビアンも、それにとことん圧倒されちゃったの
かもしれません。
ハビアンにとって、その鬼気迫るシュール?さは、現代でいうならピカソの
絵画作品並みのド迫力があったことでしょう。

ちなみに、その後も朱子学をもって江戸幕府の文教分野を司ったのが、
この林羅山を祖とする「林家(はやしけ/りんけ)」ということになりますが、
そこにはこんな説明も加えられていなす。
~江戸幕府の教学に関与すること12代に及んだ家~
ですから、今風なら代々「東大総長」を務めた家系ということになりそうです。

だとすると、こんな疑問も? では「13代目」は?
これはヤボな質問・愚問の類で、早い話が、肝心の江戸幕府(1603-1867年)
自体が消滅しちゃったのですから、当然それ以降は「幕府の教学に関与」は
なかったわけです。
だとすれば、この「林家」の場合は、~売家と唐様で書いた12代目~ってことに
なるのかなぁ?



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