日本史の「発明発見」17 情報新幹線の誕生と終焉

~殿中(江戸城内)において浅野長矩が吉良義央に刃傷に及ぶ~
いわゆる「元禄赤穂事件」(1701年)の発端となった出来事ですが、
この第一報は、当時の常識を打ち破る“驚異的なスピード”をもって、
国許の赤穂まで届けられました。

普通の旅行者なら17日程度 、飛脚なら8日をかけたといわれる江戸から
赤穂まで(約670km)の行程を、この時使者に立った二人の藩士(早水満尭
と萱野重実)は概ね四日半の猛スピードで走破したとされています。
もっとも、この時の使者たちは本人自身の「足」で駆け抜けたのではなく、
「早籠」を使ったとされていますが。

それにしたところで、このスピードは「旅行者の4倍」、「飛脚の2倍」ほどの
速度ということになりますから、ほとんど「暴走族」?のレベルです。
それを考えるなら、“常識破りのスピード”という評価もあながち大げさなもの
ではありません。

しかし、こうした死にもの狂いの「情報伝達」方法を知った商人たちは少し
ばかり首を傾げたはずです。
~根性・体力勝負のいわば力ずくのこの方法は、確かにお侍サマには
  向いているかもしれまへんが、ワテら商人にはいかにも不向きでっせ~


で、この「江戸赤穂間・超特急使者」より少し後のことのようですが、知恵を
絞った末に、「大坂・江戸」間約550kmの情報伝達速度を大巾に短縮する
システムを開発・完成させました。
早い話が「根性・体力勝負」にならない方法を発明・開発したということです。

もっとも、商人達がそうたびたび「殿中刃傷事件」に遭遇するとは思えない
ので、目的はもちろん別のジャンルの情報を伝えるためのものでした。
たとえば、利に敏い商人たちにとって、一刻も早く知りたい「米相場」。
こうした情報を少しでも早く入手できることは、安定経済のためにも、そして
また大きな利益を生むためにも不可欠なことです。

しかし、当時この「大坂・江戸」間の情報伝達のスピードは、“速達”飛脚便で
六日ほど、“特急”飛脚便でも三日ほどかかっていたとされています。
これを、ガバっと「八時間」程度にまで大幅短縮させたのですから、まさに
画期的な発明だったと言えるでしょう。

当然のことながら、その方法は「赤穂使者」が挑んだような、
~情報を携えた本人が自ら移動する~やり方ではありません。
これでは「根性・体力勝負」の一面が、一向にカイゼンされていないからです。
そこには、やはりちょいとしたそれなりの「インフラ整備」を必要としました。
とはいうものの、「合戦」どころか「刃傷事件」ですら大騒ぎするほどに
「平和」が続いていた時代でしたから、その整備は割合容易に進みました。

電話やFAXなどの便利な情報伝達機器にスッカリ慣れてしまった現代人には
この「本人移動」以外の「情報伝達方法」ってものが、なかなか思い当たり
ません。

しかし、この方法はよほど便利だったものか、実際にはついこの間の
20世紀に至っても引き続き活用されていたのです。
まさに「為せば成る!」「やれば出来る!」といったところですが、では、
その驚異の速度を誇る画期的な「情報伝達システム」とは?

米相場伝達51 スマホ52








相場旗振り(大津追分)/スマートフォン

 にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ  ↓コメント欄はいちばん下↓
↑応援クリックは↑

タネを明かせば単純な仕組みで、別に「旗振り通信」という言葉も使われて
いる、いわゆる「手旗信号」です。
先にも述べたように、これは全国の米価基準になっていた大坂の米相場を
いち早く江戸(他地域も)へ伝えることを目的として考え出されました。

その方法はこうでした。 予め「手旗」の意味を決めておいた上で、
~一方で「旗振り」により情報を“発信”し、片や「望遠鏡や双眼鏡など」で
  “受信”する~
という、至ってシンプルなシステムです。
もちろん、電気などのエネルギーもない江戸時代という大昔のことですから、
さすがに一発ダイレクトの「大阪発信・江戸受信」は無理なことであり、
そこで行程の途中に数多くの“中継地”を設けました。

そして “発信→(中継)受信”、この伝達作業を何度も繰り返すことで、知りたい
伝えたい情報を素早く伝達し、遂には最終目的地まで到達させる方法です。
この伝達作業がスムーズに行えるよう、“中継地”である「旗振り場」の施設が
ルートの各地に設置されました。

とはいうものの、こうした行程の途中には、山も谷も川などの障害物もある
わけですから、さらにもう一工夫が必要でした。
そこで、平地では背高の「櫓」、山では石造の「旗振り台」や丸太造の
「旗振り小屋」など、その場所に適した施設を設けたわけです。

もっとも、そうした中には「目視」が出来ないエリアとか、あるいは許認可の
権限を持った御上がそれを許さない※という制限付きのエリアもありました。
こうした「岩盤規制」?の網がかけられた場所では、はやり「飛脚」の足に
頼らざるを得ません。
ここらへんは、さすがにウリである「スピード」も犠牲にせざるを得なかった
ようです。
※江戸幕府は「飛脚業界」?の陳情・圧力に屈したものか、飛脚保護の
  ために「旗振り通信」禁止のエリアを設けていました。

しかし、ここで現代人は首を傾げます。
現代人~これだけではいささか考えが足りんのじゃないか?
      だって、晴天の日中ならそれで可としてもダ、「目視」が効かない
      雨天の折りや、はたまた真っ暗けの夜間はどうするべぇ?~

こうした現代人のおマヌケな質問に対して、江戸人はこうレクチャーします。
江戸人~ご心配ならお教えしますが、視界不良の際は「デッカイ旗」を、
      夜間は「松明」(たいまつ)を使いましたなァ~

現代人~・・・??あぁさよか、それでナットク!~

こうして、大坂江戸間・情報伝達、今の言葉にするなら「情報新幹線」とでも
いうべき行程。 この間の伝達時間を、わずか八時間にまで短縮することに
成功したわけです。

しかし驚くのはまだ早いゾ。 「やむなく飛脚を走らせた区間」・・・これが
なければ伝達速度はもっと速く、実質1時間40分程度で可能だったとされて
います・・・つまり、たった100分です。
すると、先の「幕府による行政指導」?・・・今風にいうなら「所轄官庁の規制」
が、そのスピード・アップを妨害していた。 こういうことにもなりそうです。

こうした江戸人の「スピードに賭ける」姿を知るにつけ、少し前の交通標語
~狭い日本、そんなに急いでどこへ行く~をついつい思い出してしまいます。
してみると、何につけ「急ぎが好き」?なのは、日本人の民族性?あるいは
昔からの趣味?だったと言えるのかもしれません。

しかし、隆盛を極めたこの「情報新幹線」システムも、大阪(旧大坂)に電話が
開通(1893年)すると、次第に凋落傾向が現れ始め、20世紀に入った1918年
には役割を終え完全に消滅しました。
こうした姿は、華やかな脚光を浴びて登場した「ケータイ(携帯電話)」が、
「スマホ(スマートフォン)」が登場するや、たちまち取って代わられた状況に
良く似ています。

しかし、江戸の「情報新幹線」が150年以上に渡る活躍を見せたのに対し、
「ケータイ(携帯電話)」の栄華は僅か20年そこそこのこと・・・う~ん、
~狭い日本、そんなに急いでどこへ行く~



 にほんブログ村 歴史ブログ 日本史へ  ↓コメント欄はいちばん下↓
↑応援クリックは↑



---これまでの 「発明発見」 シリーズ--------------
418 日本史の「発明発見」16 地球一周!と徳川埋蔵金? 多忙!外国奉行
408 日本史の「発明発見」15 霊薬は蓬莱島に”あつた”! 徐福の到来地?
386 日本史の「発明発見」14 コミック版“逆説の日本史” 地味目の広報?
359 日本史の「発明発見」13 子が親の”名付け親”? 時間は巻き戻せるゾ
342 日本史の「発明発見」12 シュリーマンが見た”幕末” 外国人の吃驚仰天
303 日本史の「発明発見」11 百年大捜査?日本人の素 死後の黄泉と霊界
295 日本史の「発明発見」10 ”地名改称” ゴマスリ音頭 人蕩し”媚び”を売る
282 日本史の「発明発見」09 不憫な奴は死なせない 死んで花実を咲かせる
257 日本史の「発明発見」08 人類初?のカラー印刷文化 色彩世界花盛り!
242 日本史の「発明発見」07 動機?トラウマです! 聖徳太子はチビった?
222 日本史の「発明発見」06 瓦貨幣では心配ですか? 今ならノーベル賞?
217 日本史の「発明発見」05 欠陥品?リサイクル芸術 芸術品に大バケ?
211 日本史の「発明発見」04 昭和遺産?シャレでごんす フランス語と薩摩弁
193 日本史の「発明発見」03 偏諱(へんき)を賜う 出費ゼロでステータスを!
174 日本史の「発明」02 万事が”もうやっこの”国 独占を認めない心情
103 日本史の「発明」01 気配りされたアリバイ工作 ご先祖を否定せず
-------------------------------
ヤジ馬の日本史~超駄級・400記事一覧~ №301-400編 颯爽ろくでな史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・300記事一覧~ №202-299編 堂々肩すか史!
ヤジ馬の日本史~超駄級・200記事一覧~ 後編「な→ん」巻 あゝ七転八倒!
ヤジ馬の日本史~超駄級・200記事一覧~ 前編「あ→と」巻 七転び八起き!
-------------------------------







30の発明からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫) [ 造事務所 ]
楽天ブックス
日経ビジネス人文庫 造事務所 池内了 日本経済新聞出版社サンジュウ ノ ハツメイ カラ ヨム セカイ

楽天市場 by 30の発明からよむ世界史 (日経ビジネス人文庫) [ 造事務所 ] の詳しい情報を見る / ウェブリブログ商品ポータル

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック