~淀殿の青写真~

その感覚は、今回の「女子サッカーW杯」の決勝戦をライブ中継で
見た人にはわかるものかも知れない。
延長戦に入ってからアメリカにゴールされてしまったその瞬間、
大多数の日本人が「万事休す、勝負あった、もうダメだ」と思った
のではないだろうか?
よもや、そこから跳ね返して、最後に逆転勝ちを納めるなどとは
想像もしなかったことだろう。

要するに、(当然なことだが、)ライブ中継の時点では、
「その先は誰にもわからないことだった」ということだ。
ところが、これを再放送で見た人は、アメリカの勝ち越しゴールの
瞬間も、「万事休す、勝負あった、もうダメだ」とは思わなかった
はずだ。 なぜなら、最終的に逆転勝ちを納めたという「結果」を
知っているからである。

「歴史」にもこの感覚が生きていると思う。
当時の人たちは、その先がどうなるかを知らないまま行動して
いる(ライブ中継)のだが、現代人はその結果をちゃんと知った
(再放送)上で、その行動に評価を加えようとしていることになる。

このタイムラグが、歴史に対しての多くの誤解・錯覚・思い込み
などを発生させているように思えるのだ。

自身の歴史誤解を例に挙げよう。
それは「関ケ原」以後の「淀殿」の行動である。

徳川連合軍に惨敗したにもかかわらず、
その後なんと15年間も家康に頭を下げることを頑なに拒み続け、
結果として自害に追い込まれた上に豊臣家も滅亡させてしまった
ことである。

現代人から見れば、「もう少しやりようがあったのでは?」とか
「これでは単なる世間知らずのバカ姫ではないか?」と言いたく
なってしまうところだ。
少なくとも私はそれに近い印象をもっていた。

自己弁護するわけではないが、そう言いたくなるのも無理からぬ
面はある。 なんといっても、人生50年と言われた時代の
「無駄な抵抗・15年」はさすがに長いし、またその間には家康の
懐柔策もあっての、自害・滅亡なのだから。

ところが、その時代の淀殿自身になり代わって考えてみると、
確固たるものではないにしろ、可能性の高い「希望の光」は
あったのだ。

それはなにか? 家康の「余命」である。
「関ヶ原」の時、家康はもう少しで60歳に届こうかという年齢に
達していた。(ちなみに淀殿の夫・秀吉は62歳で死んでいる)

人生50年の時代に60歳の老人を相手に対峙しているのである
から、「もう数年粘れば、家康もいなくなり必ず新しい局面を
迎えるハズだ。」と淀殿が考えたとしても不思議はない。

もし、淀殿の目論見通りに、家康が秀吉と同じ年齢くらいで寿命
を迎えたなら、跡継ぎ・徳川秀忠の政治的能力は家康に比べて
ハッキリ格下であることや、その秀忠の妻は淀殿の妹・江であり
またその尻に敷かれている現実を見れば「チャンスはまだある」
と考えたくなるのも無理はない。

さらに、家康の孫娘(千姫)が秀頼の妻になっているということも、
淀殿にすれば、徳川家から「人質」をとっているのだ、ともいえる。

だとしたら、家康が寿命を迎えるということは、豊臣家にとっては
「事態好転」の条件が整うことになる。

家康よりもダンゼン若い淀殿には彼女なりの「計算」があって、
「その時期を待つ」ことで、家康に、ひいては徳川家に勝てると
踏んだワケである。

ところが「歴史」は、そうならなかった。 家康が当時の「常識」を
超えた長寿(関ヶ原)の後15年=70歳代まで)を全うしたことに
よって、淀殿の青写真は全部オジャンになってしまったのだ。

だから、計算どおりにコトが運ばなかったことを取り上げて、
彼女を「バカ姫」扱いすることは、失礼なのである。
家康の「長寿」の方が常識外れだったのだ。

実は、この淀殿が取った「家康寿命待ち作戦」には傍証がある。
それは、同じ「関ヶ原・負け組」の、毛利や上杉が取った戦後の
行動である。

彼らは、家康によって禄高を三分の一、四分の一に削られた
にもかかわらず、藩内のリストラを一切行わなかった。
これも淀殿と同様に「家康の寿命」を見込んだ上で、来るべき
「敗者復活戦」に備えたものであったことは間違いないだろう。 

要するに、当時の人は「まだ、この先を知らずに」行動していた
ことを、その結果を「もう知っている」現代人がその目線で
あれこれ言うのは、一面おこがましいことである。

だから、あまり「バカ殿」「バカ姫」と揶揄してはいけないのだ。
(反省しています。)

そんなことを言うなら、アメリカの追加点の時に「万事休す、
勝負あった、もうダメだ」と一度は落胆した私やあなただって
立派な「バカ殿」「バカ姫」候補でしょうに。

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  • 「目次」 ~2012・03・31

    Excerpt: 気がついたら、スタートから半年ほど経っていましたので、 これを機会に今までの記事を一覧整理してみました。 今後ともよろしくご愛顧のほどお願いいたします。 by 住兵衛 Weblog: ヤジ馬の日本史 racked: 2012-03-31 15:00